【将棋の駒にそんな価値のあるものがあるとは知らなかった。】盤上の向日葵
著者 柚月裕子
【内容】
実業界の寵児で天才棋士――。 男は果たして殺人犯なのか! ?
さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。果たしてその先で二人が目撃したものとは! ?
日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!
【感想】
★★★★★
ある山中で発見された白骨遺体には600万相当の将棋の名駒が一緒に埋められていた。刑事はその遺体の身元と誰が殺して埋めたかを将棋の駒からたどっていく。
一方、子供のいない夫婦の夫、唐沢は古紙回収で将棋雑誌が抜き取られていることを知り、犯人は誰なのか突き止めようとして一人の少年に出会う。その少年の服がぼろぼろだったこと、やせぎすで小学生のうちから新聞配達をして働きお父さんから虐待を受けていることを知り、将棋好きのその少年と週一回ご飯を食べさせたり将棋を指したりするようになる。そして少年の才能に気付き奨励会に入れようとするもその少年の父親に反対されてしまう。
この唐沢と少年・桂介のエピソードがとても暖かく、涙がこぼれた。
駒をたどっていくのと桂介のエピソードが交互にやってきて、「遺体はもしや父親なのか・・・」「けど桂介が殺人なんてするだろうか・・・」などと頭によぎる。
「盤上の向日葵」というタイトルも、物語を読んでいくうちにとてもしっくりときた。
最後の方、唐沢の妻が「(駒は)息子に譲った」と言った時涙がこぼれた。
とても読み応えがあり、面白い作品でした。
【抱腹絶倒のバッタ研究記in モーリタニア】バッタを倒しにアフリカへ
著者 前野ウルド浩太郎
【内容】
バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに…。『孤独なバッダが群れるとき』の著者が贈る、科学冒険就職ノンフィクション!
【著者プロフィール】
前野 ウルド 浩太郎(まえの うるど こうたろう)
昆虫学者(通称:バッタ博士)。1980年秋田県生まれ。国立研究開発法人
国際農林水産業研究センター研究員。神戸大学大学院自然科学研究科博士
課程修了。博士(農学)。京都大学白眉センター特定助教を経て、現職。
アフリカで大発生し、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの防除技術の
開発に従事。モーリタニアでの研究活動が認められ、現地のミドルネーム
「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる。著書に、第4回いける本大賞を
受賞した『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大
発生』(東海大学出版部)がある。
【感想】
★★★★★
最近のニュースで東アフリカでバッタ大量発生の被害があるとのことでこの本を読んでみました。彼はモーリタニア、西アフリカでサバクトビバッタの研究をしたとのこと。
バッタの研究だけでなく、モーリタニアでの生活、フランス語を話せない彼なりのコミュニケーション方法、そしてバッタがなかなか大量発生しないときのほかの研究(ゴミムシダマシ)のことやかわいいペットとの生活などを面白く描かれています。
しかも出張中には実は私が住んでいるところの近くまで来ていたんだなあと。ファーブルにあこがれた彼、だれもが読んだことのあるファーブル昆虫記、私も是非ファーブルの村に行ってみたいなと思いました。
途中途中にある写真とそのコメントには面白かったり、哀愁ただよっていたり・・・。どのページもとても面白いです。
私は昆虫は苦手(手足が合わせて4本以上の生き物は苦手)なのですが、それでもバッタの写真などは感動しました。
自然が相手でもあるので苦労もあった研究生活だとは思いますが、著者の前向きかついけいけおせおせ的な行動力でとても充実したものだったのではと思います。
名前のウルドについて。これは本書にも記載されていてぜひ読んでもらいたいのですが、「~の子孫」という意味らしいです。そして本書の最後にこのウルドについてのオチもあり、爆笑しました。
ぜひぜひこの研究を続けていただき東アフリカのほうのバッタ問題も解決に進めばなあと思います。
砂漠のリアルムシキングというブログもあったのでぜひ読んでみたいと思いました。
【黒幕は一体誰なのか】坂の上の赤い屋根
著者 真梨幸子
【内容】
わたしが人殺しになったのは、この街のせい――。
人格者と評判も高かった夫婦が、 身体中を切り刻まれコンクリート詰めされて 埋められた。 血を分けた娘と、その恋人によって……。
その残虐性から世間を激震させた 『文京区両親強盗殺人事件』から18年後。
事件をモチーフにした小説が週刊誌で 連載されることになる。
そこで明らかになる衝撃の真実とは!?
【感想】
★★★★★
一筋縄じゃ行かないホラーミステリーでした。 最初の描写で描かれていたのは、『文京区両親強盗殺人事件』の死刑囚の自分語り。彼は交際中だった当時19歳の女性と一緒にその両親を殺害。
無期懲役だった当時19歳の女性は事故で全生活健忘となり、釈放されたとのこと。
その後この事件について小説を書こうとする「イイダチヨ」と名乗るライター。彼女がインタビューをするのは赤い屋根の家の隣の人、そして死刑囚の元彼女聖子、死刑囚の現在の妻であり、獄中結婚をした法廷画家礼子・・・など。
登場人物が全員何かしら怪しくて、イイダチヨはもしかして・・・とか え、この法廷画家礼子めっちゃヤバい・・・・とか、この昔の栄光をかざしてくる死刑囚の元カノ聖子とかも裏で操ってるのではとか。 思惑が錯綜して真実がなかなか見えてこず、最後を読んでもうゾクゾクしました!
グロテスクな表現もありますが、とても読みやすく面白かったです。
真梨幸子さん、ホラー好きには絶対おすすめ。
【舞台は寒いけど、熱くて、苦しくて、感動】白銀の墟 玄の月
著者 小野不由美
【内容】
18年ぶりの書下ろし新作、ついに!
驍宗様(あなた)こそ泰麒(わたし)が玉座に据えた王。
だが――。戴国の怒濤を描く大巨編、開幕!
戴国(たいこく)に麒麟が還る。王は何処へ──。
乍(さく)驍宗(ぎょうそう)が登極から半年で消息を絶ち、泰麒(たいき)も姿を消した。王不在から六年の歳月、人々は極寒と貧しさを凌ぎ生きた。案じる将軍李斎(りさい)が慶国(けいこく)景王(けいおう)、雁国(えんこく)延王(えんおう)の助力を得て、泰麒を連れ戻すことが叶う。今、故国(くに)に戻った麒麟は無垢に願う、「王は、御無事」と。──白雉(はくち)は落ちていない。一縷の望みを携え、無窮の旅が始まる!
【感想】
★★★★★
とうとう読み終わってしまった・・・・。でもまた最初から読み返したい。
しばらくずっと十二国記の世界に浸っていたい。短編も今年出るそうなので絶対買います。
さて、戴国編。
前回の『黄昏の岸 暁の天』では、各国の麒麟や王が協力して蓬莱から泰麒を救い出すことに成功。今回はその後のお話です。これ、待ち望んでた人いっぱいいただろうなあ!!
とはいえなかなか驍宗は見つからない。少年が面倒を見ている死にかけなひとはもしかして驍宗・・・?とか、泰麒が李斎と別れてから阿選のもとへ行って、「新王阿選」というけれど、もしかして本当に天命が変わってしまったのか、それとも泰麒の思惑は違うところにあるのかずっと謎のままでやきもきしながら読み進めていきました。
最後の4巻ではもう、どんどんページ数がなくなっていくのにどんどん絶望していく展開で人もどんどん亡くなっていくし、左手に持ってるページ数がもうほとんどないけれどこれどうなるのどうなるのと不安で仕方ありませんでした。
それにしても泰麒は本当に別格でした。これは黒麒麟ということもあったのでしょうか、それとも蓬莱での生活の影響?どちらにしても他の麒麟とは全然違う行動をしていて、今までの十二国記で「麒麟とはこういう生物」ということを頭に刷りこんでいたので、泰麒には非常に驚かされました。
そして気になっていた項梁、園糸と栗(りつ)のこと忘れてなくてよかった!!!!
とりあえず短編がでるそうですが、戴国のその後も読んでみたいなあと思いました。
【ずっとずっともどかしい】ストーカーとの七〇〇日戦争
著者 内澤旬子
【内容】
ネットで知り合った男性との交際から8カ月。
ありふれた別れ話から、恋人は突然ストーカーに豹変した――
執拗なメール、ネットでの誹謗中傷……「週刊文春」連載時に大反響を呼んだ、戦慄のリアルドキュメント。
誰にでも起こり得る、SNS時代特有のストーカー犯罪の実体験がここに。
【感想】
★★★☆☆
ストーカーされてる側からしたら、命の危険がないと判断されたり「これくらいで」と第三者には思われてしまってもとても怖いものなんですよね。同じ女性として気持ちがよくわかります。人間不信になってしまうんですよね。
そしてまたこの相手は常識が通じない、本当におかしな人なので話も通じない。まあもちろん話も常識も通じる人ならそもそもストーカーになっていないと思いますが。
私もつい最近話が通じない人と出会ってショックを受けたことがあったのですが、この場合は長いしそれ以上の心痛受けただろうなと思います。
それにしても警察や法律面での手続きの大変さ。
被害者に合った方がお金も時間もかけてさらなる苦労を強いられることに憤りを感じました。最近なんてSNSも発達しているしIPアドレスだって隠そうと思えば隠せるしちょっとネットで調べれば簡単に加害者はやりたい放題になってしまう。
被害者はこのお金、時間の面であきらめることを余儀なくされることも多いと思うんですよね。それで心に深い傷を負って、それからの生活も支障をきたすことがあるかもしれない。
最後まで読んでもまだもどかしく、でもこういった人たちってストーカー云々じゃなくてもたくさんいるので、本当に難しい世の中です。被害者がいろいろ削らなくても救われるような社会になってほしいなと思います。
願わくば内澤さんが平穏な毎日をまた取り戻せますように。
【魔性の子の裏側、戴国編序章】黄昏の岸 暁の天
著者 小野不由美
【内容】
王と麒麟が還らぬ国。その命運は!? 驍宗(ぎようそう)が玉座に就いて半年、戴国(たいこく)は疾風の勢いで再興に向かった。しかし、文州(ぶんしゆう)の反乱鎮圧に赴(おもむ)いたまま王は戻らず。ようやく届いた悲報に衝撃を受けた泰麒(たいき)もまた忽然(こつぜん)と姿を消した。王と麒麟を失い荒廃する国を案じる女将軍は、援護を求めて慶国を訪れるのだが、王が国境を越えれば天の摂理に触れる世界──景王陽子が希望に導くことはできるのか。
【感想】
★★★★★
今までちょこちょこ話には出てきてましたが、戴国での話。驍宗が行方不明、死亡説そして泰麒の行方不明説。魔性の子の裏側でこちらの世界ではこんな風に動いていたのかと思う話でした。間が空いていたらここの前で魔性の子を読み返してもいいですね。
さて、泰麒の行方は読者にはわかっています。蓬莱で記憶を失くして高校生活を送る高里要ですね。高里要の身の回りで起こっていた不思議な出来事は、なるほど、今読めばすべてわかる、こういうことだったのかー!ここまで長いのにきちんと考えられているなあと思います。
そして驍宗ですがあいかわらずこの巻では様子はわかりません。
でも景王のもとに逃げ込んできた李斎によって、戴国の事情が少しずつ分かってきます。この前で読んだ『華胥の幽夢』の「冬栄」の裏側ではこんな大変なことが起きていたんですね。
何とか救ってあげたい景王、そしてそれに協力するほかの国の王や麒麟たち。そしてここで少しずつ明らかになる天の存在。十二国記の世界は飽きることなく読み続けることができます。
新潮文庫の完全版では少し挿絵が挟んであるのですが、個人的にこの巻で出てきた範王、イラストで出てきてほしかった!この王様も面白い!
そして物語はいよいよクライマックス。『白銀の墟 玄の月』に進んでいきます。早く読んでしまいたいような、でももったいないような。ここまで1週間で読んでしまったのでゆっくりじっくり読んでいきたいなと思っています。
【王や王の周りの物たちの苦悩】華胥の幽夢
著者 小野不由美
【内容】
王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟(さいりん)が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王が、麒麟の泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子(ようこ)が親友楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。
【感想】
★★★★★
こちらも短編集。
王や王の周りの物たちの苦悩やそれぞれの王のものの考え方の違いに、この物語の奥深さを感じることができた。キャラクターの作りこみがもうすごい。
泰麒が自分はお役に立てないと悩む話。漣国の王様の「役割」と「仕事」についての考え方が非常に面白かった。
芳王を弑した月渓の苦悩の話。祥瓊がその後珠晶に罪を償おうとするエピソードはとてもよかったし、珠晶の処遇も珠晶らしくてとてもよかった。
面白い鳥ー!鳥でやりとりする書簡の話。
なかなか重い話だった。が、これはまた間違ったことについてどのように軌道修正するべきなのか、周りはどうするべきなのか、なかなか考えさせられる話でした。現在ある俳優さんの不倫報道が毎日されていますが、それについても通じる話なのではと思います。
おたがいにその正体を知らないまま会話する奏国太子「利広」と延王「尚隆」の会話。ここで『図南の翼』にも出てきた利広が出てきてうれしい。ここで利広が延王についての話をするのだが、何も残さず思いついたときに滅ぼすと言った時に「ああ、六太が言ってたことはこういうことだったのかな」と納得がいった。確かに尚隆ならあり得る。しかも最後に尚隆が碁の話をした時には少しヒヤッとした。