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ぶくぶくブックレビュー

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【どんな水や】星の子

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著書 今村夏子

 

【内容】

主人公・林ちひろは中学3年生。出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。前作『あひる』に続き芥川賞候補となった著者の新たなる代表作。

 

【感想】

娘(ちひろ)の病気から新興宗教にのめりこむ両親、それをちひろ目線で描かれた作品。ちひろの姉は出ていき、いとこのおじさんはやめさせようといろいろ考えたり、ちひろを家族から離して生活させようとする。全体的にずっと薄気持ち悪さが付きまとってくるような、そんな作品。

 

新興宗教についてはデリケートすぎてコメントしづらいが、異様なものを感じた。メインなものは「水」なのだが、水を飲むだけでなく頭に水で絞ったおしぼりをのせたり。

 

おじさんは最初はあれこれと反対していたが、ある日急に「このお茶、あの水で入れたの?おいしい。」と言い出す。ちひろのお父さんの頭の上に水をしぼったタオルを載せて、感想を聞くおじさん。お父さんは「じんわりとあたたかくなってくる」という。しかしその水は実は、ちひろの姉の手引きで水の入った段ボールを持ち出し、中身を公園の水と入れ替えたものだった。このエピソード、めっちゃこのおじさんの気持ちがわかる。私だったら同じようにしてしまうに違いない。

 

ちひろが友人たちと一緒にあこがれの先生に車で家まで送ってもらったときのエピソード。夜にちひろの家の近所の公園に不審者二人。先生は怪しがりその不審者が立ち去るまでちひろを車から降ろさなかった。先生が「二匹いる」といったところの言葉の使い方にも不審性を感じる。

でも実はその不審者二人は千尋の両親。緑色のジャージを着た二人が、頭にタオルを載せて、二人で水をかけあう。

ちひろと一緒に車に乗っていたちひろと昔からの付き合いのある女の子はそれが千尋の両親だとわかっていたが、もう一人乗っていた男の子は「河童かと思った」と言っていてすこし面白いとともに気味の悪さを感じた。

近所でも有名になってしまったちひろの両親。ちひろが仲良しの友人だと思っていた女の子にも「友達だと思ったことはない」といわれてしまう。その友人の気持ちもわかるし、ちひろからしたらショックだろうけど、ちひろには何もできない。両親が宗教にのめりこんだのはもともとはちひろがきっかけだったから。ちひろは両親を見捨てられないし、宗教の集会にも参加する。

 

人にとっての幸福っていうのはなんなんだろう。

新興宗教は心の弱い人が心のよりどころを求めて入ってしまうもの」と私は考えてしまうが、もちろんそうではない人もいるだろうし、非常にコメントしづらい。母親の知り合いでも「お布施を何千万も入れて、結果自営業だった夫の会社は倒産し、借金取りがうちまで取りに来て恐ろしい日々を過ごした」という人がいる。自分の実家からは呆れられ叱られ、実家が資産家だったため借金は完済してもらい、家も買いなおしてもらった。

それでも宗教はやめない。今は自由になるお金がそこまでないけれど、出せるだけのお金(お布施)は出す。息子二人は苗字を変え、母親方の祖母の養子になった。それでもその人は「きっとその宗教を信じていたからこそあれだけで済んだ。よかった。」と思っている。それはそれで幸せの形なのかもしれない。

 

この作品はちひろの両親によるお布施についての言及はない。お水の値段がいくらなのかは知らないが、ただの「水」でここまで異様性を出させるのはなかなか面白いなと思った。

 

「宗教」というのは難しい。ここでは新興宗教の「神」なるものは存在しない。崇め奉りもしない。なので宗教感はあれど、趣味などにはまる人たちともすこし共通点があるのかもしれない。

 

ラストは結局もやもやとした感じで終わったが、なかなかリアルで面白い作品だと思う。

 

 

 

星の子

星の子