プロフェッショナルな読者 グッドレビュアー 500作品のレビュー 80% VIPメンバー NetGalley.JPベスト会員2021

ぶくぶくブックレビュー

読んだ本のレビューを書いています。

【インフルエンサーに是非読んでもらいたい一冊】「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。

f:id:piyopiyobooks:20180724032106p:plain

著者 隙名こと

※ゲラ読了 2018/9/5刊行予定

【内容】 

高校のクラスメイトである、謎めいた美少女水品さんが、ある日主人公駒田を怪しいアルバイトに誘う。雑誌を買って電車に乗るだけ。駒田が15分で1万円だというその仕事の真の意味に気づいた時……。心に傷を抱える二人が出会い、未来を変えていく、ミステリータッチの青春ストーリー!

 

【感想】

★★★★★

作者のメッセージがはっきりと表れていて、とても考えさせられる小説でした。

 

インスタ映え」「BAE」「ツイッターでバズる」SNSが盛んになるにつれて、自分が名前を出さずとも「インフルエンサーになる」「注目される」ことが簡単になってきました。許可なく人や物の写真を撮ったり、動画を撮ったりしてSNSにアップする人、世界中に溢れています。やってる本人に悪気はなくても拡散されていくうちに「悪意」に代わっていく。

 

主人公の男の子も父親がなんとも珍しい亡くなり方をしてからかわれた過去を持つ。そしてヒロインの女の子も、過去のある事件によって笑うことができなくなった。

はじめはその衝撃的な父親の亡くなり方や、後から出てくるからかわれたあだ名に「秀逸」とちょっとくすっとしてしまうのですが、やっぱりそれがすごく主人公を傷つけたということで、そこを少し反省したり。

「日常の小さな奇跡を起こす」という仕事もちょっとしたミステリーに溢れていて面白かったです。物語を通して、作者のメッセージがとても上手に描かれていたと思います。


とてもライトな語り口ですいすいと読み進めることができるのですが、最後、真相がわかった時に少しだけ時が止まりました。

 

私も気づかぬうちにそんなことをしたりしていないだろうか。とか。

 

そういえば最近災害があった時に、Twitterは救助を求めるうえでとても役に立つ手段でもあったけれど、同時に被害にあっている方を興味本位で映してアップし、その画像が拡散されたりして傷つけていただろうなあとも。

 

誰もがスマホを持っている時代、そういうことが容易にできています。良識のある人が言ってもなくなることはなかなかない。こういった若者向けの小説でメッセージを送ることは、もしかしたらとてもいい手段なのかもしれないと思いました。

 

SNSだけじゃなくて、主人公の男の子が傷ついてしまったように「面白い」「秀逸」だと思ってもそういった何気ない一言が人をものすごく傷つけてしまうことがある。自分の発言にも注意しなければとも思いましたが、誰かが言ったときに、「そこでたしなめてあげる」ことができればと思いました。人は簡単に傷つくことができますが、その傷を治すのはとても時間がかかるし、擦り傷でも治らないこともある。

 


新人賞受賞ということで、まだ書き始めたばかりの新作家さんかもしれませんが、これからもこういったメッセージ性のあるものを書いていってほしいなと思いました。そして是非学校の図書館とかにも置いてほしいなと思います。

ティーンエイジャーの少年少女に是非読んでもらいたい本です。