【恋しただけのキクの壮絶な人生】女の一生 一部・キクの場合
著者 遠藤周作
【内容】
島原の乱直後、過酷なキリシタン弾圧の時代を舞台とした『沈黙』。
その200年後、300年後を描いた精神的続編にあたる『女の一生』、その第一部。
長崎の商家へ奉公に出てきた浦上の農家の娘キク。活発で切れながの眼の美しい少女が想いを寄せた清吉は、信仰を禁じられていた基督教の信者だった……。
激動の嵐が吹きあれる幕末から明治の長崎を舞台に、切支丹弾圧の史実にそいながら、信仰のために流刑になった若者にひたむきな想いを寄せる女の短くも清らかな一生を描き、キリスト教と日本の風土とのかかわりを鋭く追求する。
本文より
日本人たちはこのように彼(神父のベルナール・プチジャン)がある質問さえしなければ好意的だった。しかし彼が一度でもその質問を口にすると、まるで今まで晴れていた空が突然に曇るように、顔色を変え、不機嫌に黙りこんだ。その質問とは、
「お前さん、切支丹を知りませんか」
という短い、何でもない質問だった。(「探索者」)
【感想】
★★★★★
『沈黙』を読んだのでその後の作品として読んでおきたかった作品。
沈黙の後のちょうど大浦天主堂が建設されたころの話です。
以前『沈黙』を読む前に自分で隠れキリシタンの歴史について調べたのでかなり深く読むことができたと思います。
フランス人の神父が沖縄で聞いた「まだ日本にキリシタンがいる」をたよりに長崎で隠れキリシタンを探すが、キリシタンは迫害されるためなかなか見つけることができない。
しかし、ある日教会で祈りをささげているときに「あなたと同じ心です」という人が現れ、交流を深めていく。
キクは子供の頃木からおりれなくなり、助けてもらった少年がクロ(=キリシタン)だと知り、親に近づくなと言われる。その後その清吉と再会し恋に落ちるが清吉はキリシタン。やがて神父と交流しているのもみつかり牢屋に入れられたり流刑になったりする。
キクはそんな清吉に「なんでそんなもんをそこまで信じるのか。棄教してしまえばいいのに」と思いながらも、いつか清吉と結ばれるために教会の下女として働くようになる。マリア様を恨みながら。
そしてキクは清吉の為にお金を用意してあげないとと女街で働くことにもなる。
キクにはそこまで清吉が信仰する理由がわからない。処女のままイエスを産んだ女なんて馬鹿な事信じられるはずがない。なんでそんなバカげたことを信じられるのかと思いながらも清吉のことを想う気持ちが一途すぎて泣ける。
私も信仰に関してはキクと同じような気持ちであると思う。読んでいて、神父はただひたすら祈るだけだし、祈ったところでなんにもならないし、挙句の果てには苦しみは後々善きことだと思われるとか苦しむことによって結びつきが強くなるとか説く。私にはその考え方は受け入れられないというか。
なのでキクのキリスト教に対する気持ちに共感するとともに、キクの一途さに心打たれた。最後、清吉と伊藤が話をして清吉がキクがどのような目に合ったかを知って苦しむというちょっとすっきりした場面もありました。清吉その後別の人と結婚して4人の子供を作るという点で「えーキクがかわいそう!」と思ったので。
キリシタンに対する迫害もとてもひどいもので、目を背けずにはいられない描写もある。
キリシタンのみならずキクにもひどいことをする伊藤清左衛門に関しては、嫌悪感を抱くと同時に哀れみの気持ちも沸いた。このような人物描写の素晴らしさはさすがだな!と思いました。
、素晴らしい小説でした。
意外と読みやすいのでぜひいろんな人にお勧めしたい作品です。