【新時代の虚無】破局
著者 遠野遥
【内容】
私を阻むものは、私自身にほかならない。ラグビー、筋トレ、恋とセックス―ふたりの女を行き来するいびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。第163回芥川賞受賞。
【感想】
★★★★☆
今年の芥川賞です。
読んでみて最初に思ったのは、この遠野遥さん、変わった人だなあ。
帯に書いてあった「28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。」が本当にぴったりなお話でした。どんなお話かというと、なかなか説明するのが難しい。
なぜならば、本筋よりも彼の行動や思ったことにいちいち目がいくから。
半分くらい本筋に関係なさそうな描写が出てきます。
それはそれで面白いし、この人の本はほかに読んだことがないのでいつもこんな感じかはわからないのですが、この主人公の描写や考えが散らばっていることで、「なんか今どきの人ってこんな感じなのかな」って思ったりしました。
最初にひっかかったのはチワワの描写。チワワが主人公・陽介のこと見てるんですがほんとこの辺読んでたらもう頭の中はチワワでいっぱい。なんの関係もないのに。
その次に出てくるのが、「膝」なにこれ、膝?ヒザ?と思っているとどうやら友人で「ライブ見に来て」と誘ってくるんですが、どうやら音楽ではなくお笑いのライブで。終盤になってくると慣れるけど膝っていう苗字、めっちゃ変わってない?もう苗字にしか目がいかないよ!
わりと楽しみながら読むんですけどね。突っ込みながら。
帯の後ろ側には本文が引用されていますが
けっこうずっとこんな感じ。
昭和の人間ならズコーってなりそうな感じ。
ちなみにこれ、割と最初の方にでてくる文ですが、朝起きてテレビつけたら巡査部長が元交際相手の家に不法侵入して下着を盗んで逮捕されたというニュースがあって
私は突然、他人のために祈りたくなった。
ってなって祈るんですね。最後ズコってなるけど。ならないよ!こんな気持ちに!このニュースで!めっちゃ不思議。
結構パワーワードとか、パワーセンテンスありました。本文にあまり関係ないとこがぐいぐい来ます。
さて、タイトル通り本筋は「破局」に進んでいくのですが、最後はえええって感じでした。
陽介、今までの描写で「虚無」とか「無気力」的なイメージがあって、でもラグビーや肉、自慰に関してはわりと熱心で。セックスに関しても、最後の方はちょっと灯ちゃんの性欲についていけない感もあったので、最後の展開は予想していませんでした。もっとあっさり「破局」を迎えるんだと思ってました。
でも、この本筋と関係ない描写、割と私は好きですね。ほんと最初は膝って名前が出るたびにちょっと面白かった。自慰の描写めっちゃ詳しいくせにワンピースの描写雑!とか、めっちゃ陽介っぽい。でもきっと世間の男性こんな感じに思ってるんだろうなって思いました。
彼のもう一冊の『改良』を読んで比べてみたいなと思いました。