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【正しかった選択の上にいる自分】武道館

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著者 朝井リョウ

【内容】

 

【正しい選択】なんて、この世にない。
「武道館ライブ」という合言葉のもとに活動する少女たちが、最終的に”自分の頭で”選んだ道とは――。

様々な題材を通して現代を描き続けてきた著者が今回選んだのは「アイドル」。
視聴者のあいだで物議を醸したドラマ化を経て、待望の文庫化。
解説には、音楽家として多くのアイドルをプロデュースしてきたつんく♂を迎える。

結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、
さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。
しかし、注目が集まるにしたがって、様々な種類の視線が彼女たちに向けられるようになる。
そして、ある出来事がグループの存続さえも危うくしてしまい……。

「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」
「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」

恋愛禁止、炎上、特典商法、握手会、スルースキル、無料文化、卒業……
この数年であっという間に市民権を得た言葉たちの中には、
アイドルという存在から発生したものも多い。
新しい言葉が生まれた場所から見えてくるのは、今を生きる人々の様々な一面。
現代社会での生き方を模索するすべての人へ送る、真摯な物語。

 

【感想】

★★★★★

アイドルがテーマの物語。主人公は愛子という、「NEXT YOU」というアイドルグループに所属している高校生。

 

アイドル云々に関わらず「今」グサリとささるものがあった。

 

無料コンテンツが溢れる時代、CDを買わなくなった。「お金の使い道」

たくさんの選択肢があるけれど、自分がしてきた選択は正しかったんだろうか。

 

なかでもこの二つがグサリと刺さりました。

 

海外在住ですが、インターネットが発達したおかげで、youtube動画共有サイトにより、日本にいるときと変わらないコンテンツが無料で見られます。

私もCDとか音楽をあまり買わなくなった。spotifyとかyoutubeで十分と思ってしまう。

ドラマだって、映画だって、世界各国の物を無料で見ることができる時代。

 

私は読書が好きなので、本はたくさん買いますが、やはり古本屋で買うことが多いです。好きな作家さんなどは新刊で買いますが、古本屋で買って、読み終わって、もういいなと思ったら次の年に古本屋に売る。

この「武道館」は新刊で買った本です。朝井リョウさんはいくつか古本屋で買って読んで、去年かな、ネットの試し読みで読んだエッセイを読んですごく好きになった作家さんで、エッセイとまた本の感じは違うのですが、小説もすごく好きで、新刊で買っている数少ない作家さんです。

 

でも振り返ってみると、中学生からずっと、日本にいたときはきちんと本もCDも買っていました。あまりインターネットを利用することもなく、無料コンテンツもあまり利用しなかった。海外に住んでからだと思う。コンテンツとしての「物」を買わなくなったのは。

それはもちろん、収入源としての「円」が入ってこないっていうこともある。海外に住んでいるからっていうこともある。

 

中学生や高校生の時はお小遣いで、本やCDを買っていました。けど、少ないお小遣いの中でじっくり考えて、何を買おうか純粋に選んで買っていた。

大学生や社会人になって自分の使えるお金を自分で稼げるようになると、その「選択」はわりと緩くなったと思う。CDはAmazonで買って、本はいつも本屋さんで新刊で単行本を買っていて、あまり文庫を買っていなかった。

 

現在はほぼ文庫。しかもほぼ古本。CDなんてもう何年も買ってない。DVDは5枚でいくらのを買ったり。でもNetflixを契約しているので最近はほぼ買っていない。

なので、「売る側」としての愛子の気持ちを読んで、はっとさせられるものがあった。

 

そして、「選択」についても。

今までいろんな選択があった。それを全部選んできた。

「高校受験」「クラブ活動」「大学受験」「留学」「就職」「結婚」「海外での生活」・・・。そしてこれからもたくさんの選択肢が私にはある。今までを振り返ってきて、私は「正しい選択」にしてきたと思っている。

今もいろんな選択肢があって、迷ったりしているけれど、私はどの選択をしても「これで正しかったと思う」と思う。

 

作中の中で愛子がした選択、碧がした選択、ほかのメンバーや候補生がした選択。

きっとそれぞれ「正しかった選択」だと思う。

 

この小説を読んで、私は自分の気持ちを言葉として表現することができなかった。でもとても心に残る小説だった。

 

 

 

 

武道館 (文春文庫)

武道館 (文春文庫)