【自分にももしかしたらその時がやってくるかもしれない、「物忘れ」】永善堂病院 もの忘れ外来
著者 佐野香織
【内容】
「もの忘れ外来」--そこは、孤独や不安が明日への希望に変わる場所。
認知症の不安を抱く人々が訪れる「もの忘れ外来」を舞台に、
看護助手・奈美の葛藤と成長を描く、感動の医療小説。
【感想】
★★★☆☆
自身もメラノーマというがんに侵されて、仕事もやめ祖母の家で暮らす佐藤奈美。
資格もなく医療現場で働くことが初めてだった奈美は、慣れない仕事に戸惑いながらも真摯に向き合っていこうとする。 物事を忘れていってしまうことに不安を覚える患者さんたちや、その周りの人たちについてリアルに描かれていた作品でした。
しかし、フォントがあまり好きになれず文章が読みやすい割にはとっつきにくかったのと、最終的に何が言いたいのかはあまり伝わってこなかったかなと思いました。
【「意識体」だけの存在は「生きている」と言えるのか】代体
著者 山田宗樹
【内容】
『百年法』(第66回日本推理作家協会賞)から4年。新たに現代社会に問いかける衝撃の問題作にして、一気読み必至のエンターテインメント大作!
人工知能が実現しつつある現代に生きる全ての人に問う――「あなたは、本当にあなたですか?」
近未来、日本。そこでは人びとの意識を取り出し、移転させる技術が発達。大病や大けがをした人間の意識を、一時的に「代体」と呼ばれる「器」に移し、日常生活に支障をきたさないようにすることがビジネスとなっていた。
大手代体メーカー、タカサキメディカルに勤める八田は、最新鋭の代体を医療機関に売り込む営業マン。今日も病院を営業のためにまわっていた。そんな中、自身が担当した患者(代体を使用中)が行方不明になり、無残な姿で発見される。残される大きな謎と汚れた「代体」。そこから警察、法務省、内務省、医療メーカー、研究者……そして患者や医師の利権や悪意が絡む、壮大な陰謀が動き出す。意識はどこに宿るのか、肉体は本当に自分のものなのか、そもそも意識とは何なのか……。科学と欲が倫理を凌駕する世界で、葛藤にまみれた男と女の壮大な戦いが始まる!
【感想】
★★★★★
『百年法』は買ったとき飛行機の中で夢中で読んだ作品。SFは苦手だけど、どこかリアリティのあるSF作品は好き。たとえば高野和明の『ジェノサイド』とかも好き。
今回のテーマは『代体』。
病気やけがをした人に一時的に代体とよばれる人間のような形の器をあてがい、意識だけをそこに移す。顔部分はスクリーンのようなものになっており、それぞれの顔が映し出される。
これ一番初めに使う人はめっちゃ勇気いる!ハードコンタクトみたいな。
とにかく、そういったものが普及してきている日本が舞台。主人公八田はそういった代体の営業マンであり、技師でもある。
担当の患者が代体に入り、その後肉体のほうが死亡。患者としては、意識はあるのだから予定の30日になったら違う代体に入れないのかという、自分の体は死んだのに「死」を感じられない状態。代体同士での意識の転送は許可されていないために断るも、その患者がある日、中身が空っぽの状態で発見されるというところから物語は動き出していく。
最初に「生きる」とは「死」とはをガツンと考えさせてきます。すぐに話にのめりこんでしまいました。
そこから話はどんどん広がっていき、驚きの展開になっていきます。
今回もとても面白かったです。一気読み必至。
『百年法』も本当におすすめです。
【人気シリーズ、堂々の完結巻!】書店ガール7 旅立ち
著者 碧野圭
【内容】
中学の読書クラブの顧問として、生徒たちのビブリオバトル開催を手伝う愛奈。故郷の沼津に戻り、ブックカフェの開業に挑む彩加。仙台の歴史ある書店の閉店騒動の渦中にいる理子。そして亜紀は吉祥寺に戻り……。それでも本と本屋が好きだから、四人の「書店ガール」たちは、今日も特別な一冊を手渡し続ける。すべての働く人に送る、書店を舞台としたお仕事エンタテインメント、ついに完結!
【感想】
★★★★☆
いや、実は読んだことなかったんですよね、このシリーズ。
ドラマも見たことなくて。どうかなーと思いましたが、楽しめました。
是非1巻から買って読みたいなと思いました。
最初の中学生のビブリオバトル、面白いなと思いました。自分の生徒にもやらせてみたいなと思ったし、 私もやってみたいと思いましたし、出てきた本が読みたくなりました。
そして仙台の書店閉店騒動。読んでいてこちらも胃がきゅんとしめつけられるような思いがしました。歴史ある書店の店長、そこで働く人たち、そしてお客様たち、そしてその書店の大元の会社。SNSなどで噂が広められるとか、めっちゃありそうだし、板挟みのエリアマネージャー理子は胃が痛いだろう。そして最後の店長とのやりとりも、しんみりさせるような、切ない感じでとてもよかったです。
最後は亜紀が新しく店長として働くという前向きな感じで終わっていて、読後感がとてもよかったです。
既刊はこちら
【恐ろしいのは大人だけじゃない】ユートピア
著者 湊かなえ
【内容】
【第29回 山本周五郎賞受賞作】
善意は、悪意より恐ろしい。
足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす――。
湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。
地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。
「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが――。
【感想】
★★★☆☆
山本周五郎賞だけど、そこまでグッと来なかったかな、というのが私の感想。
陶芸家・すみれがは「こういう人、いるいる!」と思いながら読めました。痛い!
菜々子の娘・久美香は交通事故にあったことにより歩けなくなり、車いすで生活している。久美香と友達になった光稀の娘・彩也子の作文により、すみれは自身の作品をチャリティーで売ることを思いつき、それで名声を得ようとする。しかし、そんななか不穏な噂や事件が起こり、過去の事件も合わせて物語はきな臭くなっていく。
最終的に健吾側の思惑などがあまりはっきりしないため、少しもやもや感が残る。
最後の最後である「告白」があり、湊かなえだなあーと思わせてくれた。
【最低で最高の1か月】ルーム・オブ・ワンダー
著者 ジュリアン・サンドレル
【内容】
シングルマザー、テルマの生きがいは、12歳の息子ルイと、セクハラにもパワハラにも耐え抜いて手に入れた仕事だった。その大事な息子が目の前で交通事故に遭い昏睡状態に陥ったときから、テルマの人生は音を立てて崩れていった・・・。そんなある日、ルイの部屋で見つけたあるものが、テルマに新たな生きる目的をもたらした。ルイに残されたわずかな時間、テルマはその目的達成にかける決心をした。
デビュー作にしてベストセラーに躍り出た、涙と笑いとウィットにあふれるフランスの現代小説。
【感想】
★★★★☆
デビュー作とは思えないほど完成された本で、素晴らしい本でした。
冒頭、息子が交通事故にあい、昏睡状態に陥り、30日以内に目覚めなければ治療を終えてしまうとのことに絶望するテルマ。しかし、ルイの部屋でノートを見つけ、そこに書いてあったことを実行していくうちに少しずつ少しずつ生きる希望を見出していく。
しかし息子はなかなか目覚めず、どこかで「もう息子は恋もできないのではないか」「目が覚めることはないのではないか」と絶望も感じてしまう。
読んでいて楽しくもあり、辛くもあり、ハラハラさせてくれる物語でした。
最初のほうで日本に行く場面も出てきて、「フランス人から見た日本」もちらほら見えて面白かったです。
是非周りの外国人友達にも紹介したい本だなと思いました。
【和菓子片手に読みたい一冊】和菓子のアン
著者 坂木司
【内容】
デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの十八歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは?読めば思わず和菓子屋さんに走りたくなる、美味しいお仕事ミステリー。
【内容】
★★★★★
坂木司さんのお仕事ミステリーが大好きです。
この本はお茶、和菓子なしには読めない。というか、読んでると食べたくなる!
日本にいるときに読みましたが、日本にいてよかった!と思いました。こっちだと和菓子が手に入らないのでやきもきすることになる!
登場人物が全員魅力的で、個性的で、とても面白かったです。ミステリーと言っても人が死んだりとかはしない、ちょっとした謎なので軽い気持ちで読めます。
『アンと青春』も早く文庫化してほしいな!
【人間の醜い本能や欲望にぐいぐいと引き込まれる】鯖
著者 赤松利市
【内容】
貧困に生きる人間の悍ましさを抉る問題作。
第一回大藪春彦新人賞受賞者、受賞第一作長篇!
厳冬。日本海に浮かぶ孤島に、雑賀の一本釣りを自称する漁師たちがいた。知性もなく、金もなく、粗暴な老漁師たちが持っているのは、団結力と一本釣りの腕のみ。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で一杯ひっかけ、銭湯へ入れれば、それで幸せだった。
しかしそれぞれの欲望は着実に、彼らの生を崩壊へと向かわせており。
【感想】
★★★☆☆
最初のほうは「おじさんくさいような、自分が好んで読む感じの文章ではないな。」と思っていました。しかしだんだん人間の醜い本能や欲望がむき出しに描かれてきて、ぐいぐいと引き込まれていきました。
登場人物がまず汚い感じなんですよね。映像化するには薄汚いような。
おじさんや醜い男、漁師という仕事、そしてタイトルの「鯖」。
普段なら手に取らないような感じの本です。
でも、ぐいぐい引き込まれていくんですよね。なんなんでしょう。
想像してしまいうわっと目をそむけたくなる場面もありましたが、面白かったです。