【希望は減らない】世界地図の下書き
著者 朝井リョウ
【内容】
両親を事故で亡くした小学生の太輔は「青葉おひさまの家」で暮らしはじめる。心を閉ざしていた太輔だが、仲間たちとの日々で、次第に心を開いてゆく。中でも高校生の佐緒里は、みんなのお姉さんのような存在。卒業とともに施設を出る彼女のため、子どもたちはある計画を立てる…。子どもたちが立ち向かうそれぞれの現実と、その先にある一握りの希望を新たな形で描き出した渾身の長編小説。
【感想】
★★★★★
一言でいうと、素晴らしい作品でした。
解説でもおっしゃられている通り、「児童文学」としても素晴らしい作品です。是非大人だけでなく子供たちにも読んでいただきたい作品です。
舞台は養護施設。
親と一緒に暮らすことができない子供たちが暮らす家。
それぞれ事情があり、それぞれ問題を抱えている。
主人公太輔は、小学生の時に両親を事故で亡くし、子供のいない伯父伯母夫婦のもとに一時は引き取られるものの、うまくいかず施設へ。
伯母さんは3年後もう一度一緒に暮らしたいというも、実は事情があって、太輔はそれに気づいてしまう。伯母の気持ちも痛いほどわかるが、「そうじゃないでしょ」と思う。「自分の為に太輔を引き取る」のはやはり太輔も頭がいいので気付いてしまった。
太輔が好いている、当初から世話を焼いてくれた佐緒里。
彼女は夢があり、大学に行くという目標の為に日々アルバイトや勉強を頑張る。しかしある時、その目標が叶わなくなってしまい、不条理さにこちらもやり切れない思いになる。「誰が悪いわけでもない」と施設で世話をしてくれるみこちゃんは言う。その通りだが、やり切れない。
ほかの子供たちもイジメ、親との関係、事情を抱えている。
最終的に佐緒里の為に3年前から中止されていた「願い飛ばし」を復活させるために、子供たちは奮闘する。そこで材料の件で先生が叱りに来たところでみこちゃんが
「誰かから何かを奪ってはいけないなんて、そんなこと、この子たちはわかっています。きっと、私たちよりもずっと。だけど人からモノを盗んでまで、学校に忍び込んでまでこんなことをした。そこにはすごくすごく大きな理由があるはずなんです。」
みこちゃーん!!かっこよすぎる。涙があふれたよ。
そして最後、佐緒里の言葉。
ばらばらになっても、きっと誰かに出会える。希望は減らない。
心に刺さりました。
理不尽で不条理なことは世の中にたくさんあって、それをどうすることもできない。けど、希望は絶対に減らない。そんな救いのある言葉で締められていました。
心に残る作品でした。
【めっちゃわかりやすい】絵物語古事記
富安陽子 文
山村浩二 絵
三浦佑之 監修
【内容】
息のかよった文と迫力のある絵でよみがえる神話の世界。こんなにも面白かったいにしえの神々の物語。全ページ挿画入り。小学校中学年から。
出版社からのコメント
現存する日本最古の歴史書『古事記』。その全3巻のうち、神話をあつかっている上巻を取り上げ、240ページを超える本文の全ページにイラストを入れた絵物語に仕立てました。
スサノオとヤマタノオロチのたたかいや、鮫をだまそうとした白うさぎのこと、海幸彦と山幸彦の争いなど、『古事記』には有名な話がいくつもありますが、それらが実はひとつながりの物語の中のエピソードであることは、それほど知られていないのかもしれません。『古事記』の上巻は、天と地の始まりから、イザナキとイザナミがこの国を生み、やがてその国を、高天の原からくだってきたアマテラスの子孫が治めていくようになるまでの間のできごとを長編物語として描いているのです。
『絵物語 古事記』では、そのゆたかなイマジネーションにあふれた物語を一気に読み通していただけるように、日本を代表する童話作家、富安陽子さんの息のかよった文と、国際的なアニメーション作家、山村浩二さんによる躍動感のある絵で、神話の世界を生き生きとよみがえらせました。
初めて『古事記』を読んでみようと思っていらっしゃる方にぜひお薦めしたい1冊です。
【感想】
★★★★★
古事記としてはとっても読みやすい一冊。
古事記をテーマにした小説や漫画はたくさんありますが、実際古事記を読んでみたいと思っても、古語で書かれていたりしてとっつきにくいことがほとんど。
これは小学生からでも読めるように文章も簡潔で簡単にしてあり、前頁イラストもついているのでイメージしやすいです。
古事記は、上中下とあるそうですが、ここには上巻の「神話」が描かれています。
アマテラスがなぜ引きこもってしまったか。
スサノオとか、どんな神様だったのか。因幡の白兎、海幸彦山幸彦の話、ヤマタノオロチ、うっすらと聞いたことのある話ももう一度わかりやすく読めます。
オオナムヂ、めっちゃ何回も殺されそうになるもめっちゃ復活。神様めっちゃ子供できるな!!なんて古事記ならではの面白さも伝わってきます。
古代の人はこんなことを考えながら生活していたんだなと思うとわくわくします。
この本に出てくる、宝物も神社の宝物殿にあったりするので、見に行きたくなりました。
古事記入門編として、とっつきやすく、とってもわかりやすい本でした。
【誤植?が気になる】筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 ~鎌倉の花は、秘密を抱く
著者 谷春慶
【内容】
清一郎の毒舌、常時毛を逆立てた猫のような対応には、切ない理由があった……。
同級生・美咲の言葉により、自ら課していた呪縛を抜け出した清一郎だったが、まだまだ問題は山積み。
その上、相談事は次から次へと舞い込んできて――殺意を込められた書き文字、もう一度読み返したい本探し、
消えてしまった有名書家、早世した先輩が残した御朱印状に込めれた想い――。
鎌倉を舞台に、文字と書、人の想いにまつわる事件を描く大人気ミステリー、第3弾です!
【感想】
★★★☆☆
内容よりも、誤植?が気になりました。
誤植?と?がついているのは・・・・・
一回読んだだけで3回も同じ漢字で出てきたから。もしかして、これはわざとなの?私が知らないだけなの?著者の意図的なものなの?と感じた次第です。
誤植があるとなんかスラーっと読めなくて、え!ってここで躓いちゃうんですよね。
誤植があるのはまれに見かけるんですが、3回も同じ漢字が出てきたことはいままで気付かなかったのでとっても気になりました。
「学園祭」の省略形なんですが・・・
最初にこのページ(p.87)で「あれ?」とひっかかりました。誤植かなー。学祭って略すよなーと思いつつ読んでいくと。
ちなみにそのまま半分くらいまでいくと「書とは言ませんよ」で脱字発見。
あれ、また出た。(p.94)
そして
そして最後、p.239にてまた出ました。
ちなみに「学際」という言葉はあるんですが
学際(がくさい、英語:interdisciplinary)とは、研究などがいくつかの異なる学問分野にまたがって関わる様子。
なので、「学園祭」というものとは違う感じ。
やっぱりただの誤植なのかな。
その他にも気になる表現などがありましたが、誤字脱字が多いなあ。校正したのかな?
表現に関しては、同じ日に読んだ「小説の言葉尻をとらえてみた」のスタンスを尊敬し、スルーで。もしかしたら意図してのことかもしれないし。
アマゾンのレビューを見たら、どのコメントも「誤字脱字」が気になっていたみたいです。私だけじゃなかったのね。
「間違い探し」として楽しめる本なのかもしれませんね。
内容ですが、おじいちゃんの本を探すという話で、フォントの話が出てきました。文庫のフォントなんてそんなに気にしたことがなかったので、面白いなあと思いました。
そして最後、書展の作品は「美咲」をイメージして書かれた作品でした。
金子みすゞの詩なんですが、なんか素敵でした。実際の作品も見てみたいです。清一郎が照れるのもかわいらしかったです。
内容は結構面白かったのに、誤字脱字のせいでちょっと残念でした。
筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 ~鎌倉の花は、秘密を抱く (宝島社文庫)
- 作者: 谷春慶,カズアキ
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2017/06/06
- メディア: 文庫
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【小説の新しい読み方】小説の言葉尻をとらえてみた
著者 飯間浩明
【内容】
筋を追っていくだけが小説の楽しみ方ではない。そこで語られた日本語に注目すると、作者が必ずしも意図しない部分で、読者は、ことばの思いがけない面白さに気づくだろう。『三省堂国語辞典』編集委員である著者のガイドによって、物語の世界を旅し、そこに隠れている珍しい日本語、興味深い日本語を「用例採集」してみよう。
エンタメ、ホラー、時代物、ライトノベル……。「旅先」となる物語のジャンルはさまざまだ。それらの物語世界に暮らす登場人物や、語り手の何気ない一言を味わいながら、辞書編纂者の目で謎を見出し、解き明かしていく。
ことば尻を捉えているようでありながら、次第に読者をことばの魅力の中へと引き込む、異色の小説探検。
【感想】
★★★★★
面白かった!!!!!
著者は『三省堂国語辞典』(略して三国)の編纂者で、彼が小説の物語の中に入り込んでいくというていで「用例採集」をしていくという感じです。
このシチュエーションがなかなか面白い。ある時は高校生の中に混じって聞き耳を立てていたり、ある時はタイムスリップをしたり、ある時はラノベの中に入ってアニメっぽくなったり、ある時はなんとラブホテルにまでついていってしまう。
そして聞き耳。
この方は辞書編纂者である故か、「誤用である」とかは言わずに、とりあえずいろいろ考えてみる。作家さんオリジナルの言い回しであったりだとか、方言であったりとか、実は昔にも使われている言葉であるとか、「えー!この言葉ってそんな古くから使われていたんだ」とか「なるほど、この作家さんはこういう言い回しを使うんだな」とか、とても興味深いです。「用例採集」というのはこのようなスタンスなんですね。
「言葉尻をとらえる」とのことだったので批判とか指摘なのかなと思っていましたが、このようなスタンスなのでとても気持ちよく読めました。批判と指摘ばかりだとうんざりしますよね。
国語辞典編纂者さんならではの、ひっかかりが面白かったです。「え???ここ???」っていうのもあったり。私だったらスルーです。
朝井リョウの小説「桐島、部活やめるってよ」が初めに取り上げられていて、その話では方言の言い方がよく出ていたけど「方言言葉」があまり使われていない。でも一つ「体操座り」とうものがあった。
私は実は生まれが朝井リョウの出身地の近所なので、「体操座り」という言葉は日常的に使っていた。そうなんだ、これ方言なんだ。もしかしたら朝井リョウも実は気付いていないかもしれませんね。
彼の小説にはオノマトペがたくさん使われていて、なかでも「ふわとろ類」と著者が呼んでいる言葉もあります。「ふわとろ類」!!なんだかかわいい名前。
朝井リョウの小説は確かに面白い表現がいろいろ出ていますが、こんな風に注目して読むことは少ないのでとても面白かったです。
その他にも「責」。
「私の責に帰す」
この場合なんて読むの?とか。これは半沢直樹の小説で出てきた言葉でしたが「せき」だとずっと読んでいましたが「せめ」だったんだなあ!と、全然気にもしていなかったので、驚きでした。
その他にも有名作家さん、作品がたくさん。私がほとんど読んだことのある作品や、作家さんでしたので「えーそうなんだ。ちょっとこれから注目して読んでみようかな」なんて思いました。もっとも、私が小説を読むときはその世界にどっぷりと入ってしまい、頭の中で映像化されてますので、「特にこの表現が面白いな!」と思うことがない限り、スルー傾向にありますが。
新しい小説の読み方として、そして国語辞典編纂者さんの面白い「視点」から。
これからの読書がまた楽しくなれそうな本でした。
【和風イケメン、酒に溺れて管をまく】筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 ~鎌倉の猫は手紙を運ぶ
著者 谷春慶
【内容】
大学一の有名人かつアンタッチャブルな存在――東雲清一郎。
美咲は祖父の手紙の鑑定を通して、彼と知り合うが、清一郎の毒舌は相変わらずで……。
黒猫を通して、飼い主との間ではじまった文通。徐々に育まれる恋心。が突然、途絶える返事。
宙ぶらりんな思いにケリをつけようと、猫の手紙を手かがりに、美咲と清一郎の人探しがはじまる――
「文字は嘘をつかない。本当に鑑定していいんだな?」。
鎌倉を舞台に、文字と書、人の想いにまつわる事件を描く、大人気ミステリー、第2弾です。
【感想】
★★★★☆
最初の頃はなんだか気になっていた、東雲清一郎の話し方。
「こんな男イケメンでも面倒くさいな」と感じていたけれど、だんだん慣れてきて癖になってきている自分がいる。
今回は最後のほうで美咲が東雲清一郎に対して恋心を抱いていることに気付く。
冷たいけれど、方向音痴というちょっと抜けたところがあり、肝心な時には守ってくれるイケメンならそりゃあ惚れるだろうね。
将来的にSEになりたいという清一郎。書全く生かせないじゃん!けど現実的に、確かに向いているよ・・・。そういう仕事。
今回は書展に向けて書を書こうとするが、母の書を見て絶望し、酒に溺れて管をまいている清一郎が出てきます。汚い部屋で紙パックの安い日本酒を飲みまくってるイケメン、嫌だな(笑)
最後の話、千利休の鑑定をする話が面白かったです。
詐欺師と思われる落合が、またもやイケメン設定なのはちょっとうんざりですが(笑)
そんなに世の中にイケメンいないよ!!!
筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 ~鎌倉の猫は手紙を運ぶ (宝島社文庫)
- 作者: 谷春慶
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2016/06/07
- メディア: 文庫
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【信じることの難しさ】怒り
著者 吉田修一
【内容】
若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。そして事件から一年後の夏―。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。
【感想】
★★★★★
信じることは難しい、そう思った。
この小説は場所が3か所に別れていて、それぞれ怪しい謎の男が出てくる。名前も素性も確かではない男たち。その男と、その男に関わる人たちで構成されている。
最初に殺人事件が起きていて、この3人のうち、だれかが犯人「山神一也」なんだと思わせるような記述。
身元不詳の怪しい男たち、知れば知るほど怪しさを増していく。
そんな男たちと関わっていく登場人物。
身元不詳の男①田代
千葉の房総にて漁業関係の仕事に就く謎の若者。
ソープランドで働いていた愛子という娘と暮らす父・洋平は娘、愛子が田代と関わっていくことに少し不信を抱くも、娘が惚れている男だからと信じたい気持ちもある。
田代が働く前にいた長野のペンションに行くも、働いていたことは働いていたが、働いていた年数は嘘で、名前も偽名であることを知る。
愛子は田代から親の借金で追われているため、そのようにしていると聞くが・・・。
身元不詳の男②大西直人
優馬の母親が入院していることを聞くと、直人はお見舞いに行き、母親や兄嫁からは好印象を持たれる。優馬は直人のことを好きになるが、優馬の周りで泥棒騒ぎが起きる。
そしてテレビでやっていた「山神一也」の件でも直人のことを怪しんでしまう。直人のことを信じたいが、どうしても信じきれない。
身元不詳の男③田中
沖縄の無人島に潜伏していた男。ひょんなことから女子高生、泉と知り合うが「ここにいることは内緒に」と言われる。泉のことを好きな辰也にもある日沖縄にて紹介。泉と辰也が島に帰るとき、泉が米兵にレイプされそうになる。誰かの声で米兵が逃げ、辰也が泉のもとに駆け付けるが、通報はしたくないという泉。その後無人島で辰也は田中と再会し、自分の家のペンションで働くように言う。泉の事件の時声をかけたのは田中だと田中から聞き、辰也は田中を信頼し、兄弟のように慕う。ある日泉が無人島を訪れたとき、壁に落書きがあるのを発見する。その後辰也もその落書きを見て、様子が変わる。
上下巻通して、「信じることは難しい」ということが描かれていました。
すっかり信じてしまい、裏切られたことに対する辰也の衝動。疑いを向けてしまったために、後悔する愛子、そして優馬。
相手を信じるということは、その相手を信じている自分を信じるということ。それなんかマンガかなんかに書いてあった気がしますが、その通りかもしれない。
全く関係ないですが、吉田修一さんはいい男ですね。表紙をめくると顔写真があるんですが、「うわ、かっこいい!」と思いました。渋くていい男です。好きです。
【ツンデレ方向音痴】筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。
著者 谷春慶
【内容】
文字は嘘をつかない。本当に鑑定していいんだな?
亡くなった祖父の思いを確認すべく、美咲は大学一の有名人、東雲清一郎を尋ねるが、噂に違わぬ変人で――。
有名な書道家なのに文字を書かず、端正な顔から放たれるのはシビアな毒舌。
挫けそうになる美咲だが、どうにか清一郎を説得。祖父から残された手紙を鑑定してもらうことになるが……。
古都・鎌倉を舞台に巻き起こる、文字と書にまつわる4つの事件の連作短編ミステリー。
【感想】
★★★☆☆
これは、ジャンルというとライトノベルになるのかな。キャラクター小説って感じです。
イケメン書道家が筆跡鑑定ができるということで筆跡鑑定をしながら謎を解くミステリーです。
このイケメン、なかなかの人間嫌いで冷たいのですが、弱点として「極度の方向音痴」というかわいらしい側面が。
ツンデレ好きには好きな小説なんじゃないでしょうか。
私は「和」が結構好きで。「和風男子」好きです。
書道家とか、「ばらかもん」も好きですね。これは友人に借りてハマって私も買っちゃいました。
結婚したのは欧州男子なんですけどね。だからフィクションに求めてしまうのかな。