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【小説の新しい読み方】小説の言葉尻をとらえてみた

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著者 飯間浩明

【内容】

 筋を追っていくだけが小説の楽しみ方ではない。そこで語られた日本語に注目すると、作者が必ずしも意図しない部分で、読者は、ことばの思いがけない面白さに気づくだろう。『三省堂国語辞典編集委員である著者のガイドによって、物語の世界を旅し、そこに隠れている珍しい日本語、興味深い日本語を「用例採集」してみよう。
エンタメ、ホラー、時代物、ライトノベル……。「旅先」となる物語のジャンルはさまざまだ。それらの物語世界に暮らす登場人物や、語り手の何気ない一言を味わいながら、辞書編纂者の目で謎を見出し、解き明かしていく。
ことば尻を捉えているようでありながら、次第に読者をことばの魅力の中へと引き込む、異色の小説探検。

 

【感想】

★★★★★

面白かった!!!!!

著者は『三省堂国語辞典』(略して三国)の編纂者で、彼が小説の物語の中に入り込んでいくというていで「用例採集」をしていくという感じです。

このシチュエーションがなかなか面白い。ある時は高校生の中に混じって聞き耳を立てていたり、ある時はタイムスリップをしたり、ある時はラノベの中に入ってアニメっぽくなったり、ある時はなんとラブホテルにまでついていってしまう。

そして聞き耳。

 

この方は辞書編纂者である故か、「誤用である」とかは言わずに、とりあえずいろいろ考えてみる。作家さんオリジナルの言い回しであったりだとか、方言であったりとか、実は昔にも使われている言葉であるとか、「えー!この言葉ってそんな古くから使われていたんだ」とか「なるほど、この作家さんはこういう言い回しを使うんだな」とか、とても興味深いです。「用例採集」というのはこのようなスタンスなんですね。

「言葉尻をとらえる」とのことだったので批判とか指摘なのかなと思っていましたが、このようなスタンスなのでとても気持ちよく読めました。批判と指摘ばかりだとうんざりしますよね。

国語辞典編纂者さんならではの、ひっかかりが面白かったです。「え???ここ???」っていうのもあったり。私だったらスルーです。

 

朝井リョウの小説「桐島、部活やめるってよ」が初めに取り上げられていて、その話では方言の言い方がよく出ていたけど「方言言葉」があまり使われていない。でも一つ「体操座り」とうものがあった。

私は実は生まれが朝井リョウの出身地の近所なので、「体操座り」という言葉は日常的に使っていた。そうなんだ、これ方言なんだ。もしかしたら朝井リョウも実は気付いていないかもしれませんね。

彼の小説にはオノマトペがたくさん使われていて、なかでも「ふわとろ類」と著者が呼んでいる言葉もあります。「ふわとろ類」!!なんだかかわいい名前。

朝井リョウの小説は確かに面白い表現がいろいろ出ていますが、こんな風に注目して読むことは少ないのでとても面白かったです。

 

その他にも「責」。

「私の責に帰す」

この場合なんて読むの?とか。これは半沢直樹の小説で出てきた言葉でしたが「せき」だとずっと読んでいましたが「せめ」だったんだなあ!と、全然気にもしていなかったので、驚きでした。

 

その他にも有名作家さん、作品がたくさん。私がほとんど読んだことのある作品や、作家さんでしたので「えーそうなんだ。ちょっとこれから注目して読んでみようかな」なんて思いました。もっとも、私が小説を読むときはその世界にどっぷりと入ってしまい、頭の中で映像化されてますので、「特にこの表現が面白いな!」と思うことがない限り、スルー傾向にありますが。

 

新しい小説の読み方として、そして国語辞典編纂者さんの面白い「視点」から。

これからの読書がまた楽しくなれそうな本でした。

 

小説の言葉尻をとらえてみた (光文社新書)

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