【少年犯罪者の代名詞】絶歌
著者 元少年A
【内容】
1997年6月28日。
僕は、僕ではなくなった。
酒鬼薔薇聖斗を名乗った少年Aが18年の時を経て、自分の過去と対峙し、切り結び著した、生命の手記。
「少年A」――それが、僕の代名詞となった。
僕はもはや血の通ったひとりの人間ではなく、無機質な「記号」になった。
それは多くの人にとって「少年犯罪」を表す記号であり、自分たちとは別世界に棲む、人間的な感情のカケラもない、
不気味で、おどろおどろしい「モンスター」を表す記号だった。
【感想】
☆☆☆☆☆
あえて☆評価はなし。
ちょうどこの事件の犯人である、少年Aが逮捕されたとき、私はクラスメイトと電話をしている最中だったことを覚えている。それくらい記憶に鮮明な、この事件。彼とは私も年が近いので、クラスでも話題になったし、当時出版された、彼の顔写真が載っている週刊誌もクラス中をかけめぐった。事件からかなりの年月が経ったが、この事件は忘れられない。
この「絶歌」、出版当初はかなり話題になり、買って読んだ人のことを責める人もいた。
私が読んだ感想として、まず最初の、事件当時についての記述の部分ですが、ずっと読んでいて「この人は中二病をこじらせてこんな風になったのかな」と思った。
大好きだった祖母が亡くなり、犬が次いで亡くなり、その犬のえさを母親がノラネコなどにあげていたところ、それに嫌悪感を抱き、猫を残忍に殺害。
その後何の意味も理由もなく、女の子を通りすがりに殺害したり、弟の友達を殺害し、「一番間違っていて一番正解」と思い、弟の友達の頭部を校門に載せる。
中学生とか、そのころって、まさに「中二病」と呼ばれるくらい、みんな何かいろいろ変なことを考えたりするもんだと思う。それこそ残虐なものに少し憧れてしまったりとか、性の目覚め、性に関して後ろめたさを持つ気持ちとか。そういった「ただ思う」ことに関しては健全だと思うし、だれもが通る道ではあると思う。
ただ、この少年Aはなぜか罪を犯してしまった。理由については私にはよくわからないし、わかりたくもない。
彼は罰せられることを望んでいて、逮捕されたときも、ののしられたり、死刑にされたりを心のどこかで期待していた。この辺も中二病ならではだと思った。
少年院にいる間、彼は本を読んだ。ヘッセ『車輪の下』、メルヴィル『白鯨』、ドストエフスキー『罪と罰』、ユゴー『レ・ミゼラブル』、島崎藤村『破戒』、夏目漱石『三四郎』、森鴎外『青年』、坂口安吾『白痴』、武者小路実篤『友情』など。彼はかなりの読書家になり、そのせいか、彼の文章はとても上手だったと思う。
その後、退院後の彼は家族のもとには帰らず、日雇いの仕事をしたりする。
弟二人に会ったとき、弟の気持ちは計り知れないものだったと思うが、「Aが兄でよかった」といった弟の気持ちは私にはまったく理解できない。Aの弟ということで、かなり大変な思いをしたと思う。
Aの母親が悪いなどと書かれた記事もあったが、私は特にそうは思わなかった。Aの父も母も普通だと思うし、特に「この教育方針の性でAというモンスターができあがった」ということではないと思う。ただ、このAが少年Aになるのに、どうしてこうなったのか、私にはわからない。
この本を読み、私は、元少年Aは本質的な部分はあまり変わっていないのではないかと思った。彼は許されたいとは思っていないのではないだろうか。かつ、彼の自己顕示欲はまたふつふつと湧き上がっているのではないだろうか。そういう意味で、被害者家族がこの手記を読んで、「ああ、反省しているんだな」とか気持ちがすっきりとするものではないと思う。
今まで彼に関わった、保護観察官、警察官、少年院のスタッフなど、これを読んでどういう気持ちになるのだろうか。
「贖罪」とはどういうものなのか、考えさせられるものがあった。
この本がまるっきりのフィクション小説であったら、とても面白かったと思う。けれどこれは「事実に基づいた犯人の手記」。そういうところがやはり読み手に嫌悪感を抱かさずにはいられない。
「少年A」この子を生んで……―父と母悔恨の手記 (文春文庫)
- 作者: 「少年A」の父母
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2001/07/01
- メディア: 文庫
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【家族色々】我が家の問題
著者 奥田英朗
【内容】
夫は仕事ができないらしい。それを察知してしまっためぐみは、おいしい弁当を持たせて夫を励まそうと決意し―「ハズバンド」。新婚なのに、家に帰りたくなくなった。甲斐甲斐しく世話をしてくれる妻に感動していたはずが―「甘い生活?」。それぞれの家族に起こる、ささやかだけれど悩ましい「我が家の問題」。人間ドラマの名手が贈る、くすりと笑えて、ホロリと泣ける平成の家族小説。
【感想】
★★★☆☆
家族色々って感じです。どれもリアリティがあるし読ませる。
「夫とUFO」が結構好きでした。夫が夜な夜なUFOを交信しているということを知り、心配になる妻。妻が最後に宇宙人の真似をするところがとてもよかった。
ふとした拍子に両親が離婚するかもしれないということを知った高3の娘の話もよかったです。
『家日和』や『我が家のヒミツ』もあわせてどうぞ。
【馬・馬・馬】焦茶色のパステル
著者 岡嶋二人
【内容】
ミステリー界の至宝はここから誕生した。
二人で一人の作家、岡島二人のデビュー作にして江戸川乱歩賞受賞作。
東北の牧場で牧場長と競馬評論家・大友隆一が殺され、サラブレッドの母子、モンパレットとパステルが銃撃された。隆一の妻である香苗は競馬の知識は一切持っていなかったが、夫の死に疑問を抱き、次々と怪事件に襲われる。一連の事件の裏には、競馬界を揺るがす恐るべき秘密が隠されたいた。
【感想】
★★☆☆☆
この本の前に『悪霊の館』を読んだからか、読み終わるスピードが全然違いました。
あんまり競馬にも競馬の馬にも興味はないですが、主人公の香苗も競馬の知識がないのでわかりやすく、すらすらと読むことができました。サラブレットとか、血統とか、いろいろ厳しいんだなあと思いました。
】
【とにかく厚い】悪霊の館
著者 二階堂黎人
【内容】
不気味な逆五芒星の中央に捧げられた二重鍵密室の首なし死体。邸内を徘徊する西洋甲胄姿の亡霊。資産家一族の住む大邸宅で、黒魔術のミサを思わせる血みどろの惨劇が続く。当主はなぜ警察の介入を拒むのか。そして、「呪われた遺言」に隠された真実を追う名探偵・二階堂蘭子にもついに殺人者の魔の手が迫る。
【感想】
★★★☆☆
とにかく厚いですね。文庫本なのに厚さが3cmくらいあります。3巻くらいに分けてもいいのではと思うような厚さ。
内容は結構面白かったです。
殺され方、なかなか残虐。そして登場人物の関係も、なかなか面白い。
ただし登場人物が多いので、しょっちゅう「この人だれだっけ」と家系図や人物紹介を見返したりしました。
【再生の物語】エンディングドレス
著者 蛭田亜紗子
【内容】
32歳の若さで夫に先立たれてしまった麻緒(あさお)は、自らも死ぬ準備をするうち、
刺繍洋品店で小さなポスターを見つける。
<終末の洋裁教室>
講師 小針ゆふ子 毎週日曜午後一時から
春ははじまりの季節。
さあ、死に支度をはじめましょう。
あなただけの死に装束を、手づくりで。
死に装束=エンディングドレスを縫う教室。
人生最後に着る服を自分でつくるということに、興味が湧いた。
教室へ足を運んだ麻緒が出会ったのは、ミステリアスな先生と、3人の陽気なおばあさん。
聞けば、エンディングドレスを縫う前に、いくつかの課題があるという。
はたちの時にいちばん気に入っていた服
十五歳の時に憧れていた服
自分以外のだれかのための服
自己紹介代わりの一着……
先生やおばあさんトリオの助けを借りながら、麻緒は洋服づくりに無心で取り組んでいく。
夫の弦一郎に、命にかかわる持病があることはずっと知っていた。
それでも二人は、一緒にいることを選んだ。
洋服の思い出が、忘れていた想いや出来事を次々に引き出して――。
あつい涙があふれる! 再生のその先を描く、希望に満ちた傑作長編
―――
今はもう手元にはない、昔大好きでよく着ていた服を思い出した。
その手触りや着心地は、恐がりな自分をどんなに励ましてくれただろう。
人は生まれることも死ぬことも自分では選べないけれど、
何を纏って生きるかは選択することができる。
――山本文緒(作家)
【感想】
★★★★★
前半は読んでいてとても辛かったです。気持ちが追い付かず、少しずつ、少しずつ読みました。
夫に先立たれた麻緒の気持ちがしみてきて何度も涙がこぼれました。自分だったらどうなるだろうなんて考えました。やっぱり麻緒のように人生を終わらせることを考えてしまうかもしれない。
エンディングドレスを縫う。少しずつ時間をかけて、エンディングドレスを縫う前にいろいろなお題の物を縫う。「二十歳の時にお気に入りだった洋服」「15歳の時にあこがれていた洋服」「人の為に縫う」などいろいろなテーマでエンディングドレスに向かうまでにいろいろなものをつくる。そのたびに登場人物の思い出や過去などと向き合うことになるのだけれど、とても心に沁みた。
「人の為に」というときに麻緒は同じ教室に通う仲間からあるサプライズを受ける。もうそこがピークでした。号泣必至。
麻緒が前向きになったのはとてもよかったですが、このタイミングで前向きになれるのかと、私はあまりそこは共感できませんでした。
小針先生の過去の話も、なんか心に沁みました。
でも少しずつ立ち直る、少しずつ前向きになっていく、光が少しずつ差し込むような素敵な話でした。静かに、大切に読みたい本です。
【おっぱいは隠せ】ホラー映画で殺されない方法
著者 セス・グレアム=スミス
ゲラ読了。2018/7/23発売予定
【内容】
ベストセラー『高慢と偏見とゾンビ』『ヴァンパイアハンター・リンカーン』を執筆し、
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』をプロデューサーとして大ヒットに導いた
セス・グレアム=スミスが贈る――最高に実用的なサバイバル・ガイド
★ホラー映画の巨匠——故ウェス・クレイヴンの〝謝罪文〟付き!
ホラー映画——そこには幽霊、ヴァンパイア、ゾンビから、連続殺人鬼、人喰い、果ては日本発祥の〝呪いのビデオテープ〟まで、ありとあらゆる災厄がひそんでいる。
そんな災厄のひとつひとつに打ち勝つ方法を読者に伝授するのが、この『ホラー映画で殺されない方法』である。
・悪魔祓いの儀式はどうやっておこなうか
・去年の夏(ラストサマー)にまずいことをしでかしたら何をすべきか
・疑り深い地元の保安官をどうやって説得するか
・人殺し人形を倒すにはどうするか
・宇宙人の侵略からどうやって生き延びるか
・自分が映画の冒頭から死んでいるかどうかをいかに見きわめるか
ほかにもハウツー情報が盛りだくさん。ありがたい教訓、珠玉のイラスト、観ておくべき映画リストまでついた本書は、学園のプロムクイーンやマッチョなスポーツ選手、ベビーシッターのバイトをする十代の若者、サマーキャンプの指導員として雇われた社会人にとって必読の書である。
「まえがき」より
気を確かに持ってほしい。あなたに悪い知らせだ。今この本を読んでいるならば、あなたはホラー映画の中に閉じこめられている可能性が高い。わかってる、わかってる、馬鹿げた話に聞こえるだろう。だが、しばらくはわたしを信じたほうがいい。この本には、この本を必要とする相手を見つけ出してたどり着くという特性がある——つまり、この本があなたの手元にあるなら、そこにはちゃんと理由があるのだ。
シナリオライターや監督たちのやり口が数年のあいだにますます巧妙かつ残忍になっていくのを、この目で見てきた。そこで、わたしは自分が体得した知識を書き残そうと決心した。わたしの願いはひとつ。あなたたちに、エンドロールまで生き延びる可能性を少しでも多く提供することだ。わたしが幾多の死を回避しつつ送ってきた人生で学んだスキルを、ぜひとも分かち合いたい。
わたしの役割は何か。それは、あなたがこの地獄を切り抜けるためのガイドだ。あなたの人生を終わらせようとしているシナリオライターと監督の人生を悲惨なものにしてやる方法を示す。
さあ、わたしといっしょに来るがいい。……生き残りたいのなら。——セス・グレアム=スミス
【感想】
★★★★☆
アメリカに住んでたらもっと面白かっただろうなー。と思う本。
だって近所にアメリカ先住民の土地とかないし。
でもこれを読んだらホラー映画がコメディー映画に思えそう。
まずは、自分がホラー映画にいるかどうかのチェック。そしてどのジャンルの映画にいるか、敵を知ることが必要。
・あなたの友人がビーチでSPF値1,000,000,000の日焼け止めを使う
サブジャンル ヴァンパイア
・あなたの夫が最近よそよそしく、夫婦でレストランに行くたびに「脳みそ」を注文しようとする
サブジャンル ゾンビ
・あなたの子供に聖書を近づけると炎を上げて燃える
サブジャンル 悪魔
なかなか突っ込みたくなる。
敵が分かったら今度は倒し方、逃げる場所や武器の確保。
自分の持ち物が呪われたものかどうかもチェックできます。
そしておっぱい。おっぱいはひたすら隠せ。
若い女性の理想の服装としては、パーカーの下にスキーウェアを着こみ、その下に2枚以上のスウェットシャツ、さらに2枚重ねのブラを着け、念のためにニプレスをダクトテープで貼っておくといい。
どんだけや!!もっこもこやわ。
そしてさらに以下のように続く。
だが、女性諸君、朗報がある。23歳になった瞬間、あなたの「乳首ソニック」の出力は劇的に低下する。そしてひとたび子どもを持ったら、永遠に消失してしまう。
失礼やな!!!!
なかなか面白くて一気読みしました。
ヴィレッジヴァンガードに置いてありそうな本です。
【汚名を雪ぐ】雪ぐ人 えん罪弁護士 今村 核
著者 佐々木健一
【内容】
大きな感動を呼んだドキュメンタリー番組、NHKブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」の書籍化。
大きな身体に、白髪交じりのボサボサ頭。ドラマなどで観る敏腕弁護士とはかけ離れた風貌をしたその男は、「罪を負わされた被告人のえん罪」と「自身の中に積った心のおり」の両者を雪ぐ(=けがれを清め、汚名を晴らすこと)ために、有罪率99.9%の壁に立ち向かう。
【感想】
★★★★★
刑事裁判の有罪率99.9%、これは某ドラマでも有名になりました。
その数字に挑み、今までで14件も無罪を勝ち取ってきた弁護士、今村核さん。
無罪14件という数字は、すごい。
しかもほとんどの弁護は、お金がない人などの国選弁護人としてやってきている。なので報酬もあまりなければ、調査などでかかるお金もカンパなどを頼りにやっている。
今村弁護士は父親がエリートの家族に生まれ、期待を背負わされて育てられた。父親の生き方、方針と合わず悩むこともあり、結局このような形の弁護士になった。父親としては、弁護士になったこと自体は誇らしかったが、こういった地味な弁護で、あまり報酬もよくない仕事ばかりやっている彼には不満だった。
しかし、こういった弁護士さんこそ私たちが必要としている弁護士さんなのだ。
そそ・ぐ 【雪▽ぐ・濯▽ぐ】
本当に、「雪ぐ人」。このタイトルはぴったりだと思いました。
痴漢冤罪など、最近よく聞きます。でも冤罪で警察に連れていかれ連日の取り調べで疲れてしまい、やってもいない罪を認めてしまう人も多いと聞きます。
後半部分で痴漢冤罪裁判についての描写がありました。
今村弁護士は基本的に「きちんと科学的に無実を証明する」人なので、その件についてもきちんと証明しました。しかし裁判ではまさかの罰金刑。
結局控訴して無罪を勝ち取りましたが、こういった裁判も起こりうるというのを見てしまうと、司法が信じられなくなってしまいます。
庶民のヒーロー、今村核弁護士。
こういう人がいるということを知れてよかったです。
読んでいて涙が出てくる本でした。
今村核さんの著書も読んでみたいです。