【ずっとずっともどかしい】ストーカーとの七〇〇日戦争
著者 内澤旬子
【内容】
ネットで知り合った男性との交際から8カ月。
ありふれた別れ話から、恋人は突然ストーカーに豹変した――
執拗なメール、ネットでの誹謗中傷……「週刊文春」連載時に大反響を呼んだ、戦慄のリアルドキュメント。
誰にでも起こり得る、SNS時代特有のストーカー犯罪の実体験がここに。
【感想】
★★★☆☆
ストーカーされてる側からしたら、命の危険がないと判断されたり「これくらいで」と第三者には思われてしまってもとても怖いものなんですよね。同じ女性として気持ちがよくわかります。人間不信になってしまうんですよね。
そしてまたこの相手は常識が通じない、本当におかしな人なので話も通じない。まあもちろん話も常識も通じる人ならそもそもストーカーになっていないと思いますが。
私もつい最近話が通じない人と出会ってショックを受けたことがあったのですが、この場合は長いしそれ以上の心痛受けただろうなと思います。
それにしても警察や法律面での手続きの大変さ。
被害者に合った方がお金も時間もかけてさらなる苦労を強いられることに憤りを感じました。最近なんてSNSも発達しているしIPアドレスだって隠そうと思えば隠せるしちょっとネットで調べれば簡単に加害者はやりたい放題になってしまう。
被害者はこのお金、時間の面であきらめることを余儀なくされることも多いと思うんですよね。それで心に深い傷を負って、それからの生活も支障をきたすことがあるかもしれない。
最後まで読んでもまだもどかしく、でもこういった人たちってストーカー云々じゃなくてもたくさんいるので、本当に難しい世の中です。被害者がいろいろ削らなくても救われるような社会になってほしいなと思います。
願わくば内澤さんが平穏な毎日をまた取り戻せますように。
【魔性の子の裏側、戴国編序章】黄昏の岸 暁の天
著者 小野不由美
【内容】
王と麒麟が還らぬ国。その命運は!? 驍宗(ぎようそう)が玉座に就いて半年、戴国(たいこく)は疾風の勢いで再興に向かった。しかし、文州(ぶんしゆう)の反乱鎮圧に赴(おもむ)いたまま王は戻らず。ようやく届いた悲報に衝撃を受けた泰麒(たいき)もまた忽然(こつぜん)と姿を消した。王と麒麟を失い荒廃する国を案じる女将軍は、援護を求めて慶国を訪れるのだが、王が国境を越えれば天の摂理に触れる世界──景王陽子が希望に導くことはできるのか。
【感想】
★★★★★
今までちょこちょこ話には出てきてましたが、戴国での話。驍宗が行方不明、死亡説そして泰麒の行方不明説。魔性の子の裏側でこちらの世界ではこんな風に動いていたのかと思う話でした。間が空いていたらここの前で魔性の子を読み返してもいいですね。
さて、泰麒の行方は読者にはわかっています。蓬莱で記憶を失くして高校生活を送る高里要ですね。高里要の身の回りで起こっていた不思議な出来事は、なるほど、今読めばすべてわかる、こういうことだったのかー!ここまで長いのにきちんと考えられているなあと思います。
そして驍宗ですがあいかわらずこの巻では様子はわかりません。
でも景王のもとに逃げ込んできた李斎によって、戴国の事情が少しずつ分かってきます。この前で読んだ『華胥の幽夢』の「冬栄」の裏側ではこんな大変なことが起きていたんですね。
何とか救ってあげたい景王、そしてそれに協力するほかの国の王や麒麟たち。そしてここで少しずつ明らかになる天の存在。十二国記の世界は飽きることなく読み続けることができます。
新潮文庫の完全版では少し挿絵が挟んであるのですが、個人的にこの巻で出てきた範王、イラストで出てきてほしかった!この王様も面白い!
そして物語はいよいよクライマックス。『白銀の墟 玄の月』に進んでいきます。早く読んでしまいたいような、でももったいないような。ここまで1週間で読んでしまったのでゆっくりじっくり読んでいきたいなと思っています。
【王や王の周りの物たちの苦悩】華胥の幽夢
著者 小野不由美
【内容】
王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟(さいりん)が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王が、麒麟の泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子(ようこ)が親友楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。
【感想】
★★★★★
こちらも短編集。
王や王の周りの物たちの苦悩やそれぞれの王のものの考え方の違いに、この物語の奥深さを感じることができた。キャラクターの作りこみがもうすごい。
泰麒が自分はお役に立てないと悩む話。漣国の王様の「役割」と「仕事」についての考え方が非常に面白かった。
芳王を弑した月渓の苦悩の話。祥瓊がその後珠晶に罪を償おうとするエピソードはとてもよかったし、珠晶の処遇も珠晶らしくてとてもよかった。
面白い鳥ー!鳥でやりとりする書簡の話。
なかなか重い話だった。が、これはまた間違ったことについてどのように軌道修正するべきなのか、周りはどうするべきなのか、なかなか考えさせられる話でした。現在ある俳優さんの不倫報道が毎日されていますが、それについても通じる話なのではと思います。
おたがいにその正体を知らないまま会話する奏国太子「利広」と延王「尚隆」の会話。ここで『図南の翼』にも出てきた利広が出てきてうれしい。ここで利広が延王についての話をするのだが、何も残さず思いついたときに滅ぼすと言った時に「ああ、六太が言ってたことはこういうことだったのかな」と納得がいった。確かに尚隆ならあり得る。しかも最後に尚隆が碁の話をした時には少しヒヤッとした。
【私の推し王は断然珠晶】図南の翼
著者 小野不由美
【内容】
この国の王になるのは、あたし! 恭国(きようこく)は先王が斃(たお)れて27年、王不在のまま治安は乱れ、妖魔までも徘徊(はいかい)していた。首都連檣(れんしよう)に住む少女珠晶(しゆしよう)は豪商の父のもと、なに不自由ない暮らしと教育を与えられ、闊達な娘に育つ。だが、混迷深まる国を憂えた珠晶はついに決断する。「大人が行かないのなら、あたしが蓬山(ほうざん)を目指す」と──12歳の少女は、神獣麒麟(きりん)によって、王として選ばれるのか。
【感想】
★★★★★
十二歳ながら王を目指す珠晶。
賢く勇気もあり、時には大胆ですが間違いは謝ったりできるこの珠晶が私は大好きです。
この巻で
『
』で出てきた更夜が出てくるのです!しかも立派になって!!!!もう更夜の名前が出てきたとたん感動に震えました!
さて、話は戻りますが珠晶。彼女は実は『風の万里 黎明の空』でもちらっと出てきましたが彼女のはっきりとしたところが私はすごく好きなんですよね。あまり出てこないですが彼女の麒麟は状に深いがあまり頼れなさそうな。珠晶とぴったりなんじゃないでしょうか。よくできてるー!
この話はロードノベル的な展開で、豪商の娘の珠晶が王になるために昇山し、困難に巻き込まれながらも運に恵まれめっちゃ頑張ったのち最終的に王に選ばれるというストーリーです。麒麟に選ばれたときの台詞も珠晶らしくて面白いです。
【ファンタジーでありながらリアリティのある十二国記の世界】丕緒の鳥
著者 小野不由美
【内容】
「絶望」から「希望」を信じた男がいた。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮する。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく、走り煩悶する、名も無き男たちの清廉なる生き様を描く短編4編を収録。
【感想】
★★★★★
ここにきて短編集。
これは王の下で働く下っ端の人たちや市井の人たちを描いた作品。
この作品によってまた十二国記の世界に深みが生まれました。どんどん深みを増していく十二国記。この作品に出会えて本当に幸せです。
さて、短編集ですが、4編収録されています。
「死刑」をめぐる話。これはまた現代に通じる話であると思います。何とも言えないラストも、これはこれで読み手に「あなただったらどうする?」と考えさせてくるものだと思います。
陽子の前の王、予王により女全員国から出ていけと言われ家族を亡くし、友人も失くし、希望を失っていた少女がまた希望を取り戻していくお話。あらたな景王によって救われていってほしいと思った。
【景王と助さん格さん】風の万里 黎明の空
著者 小野不由美
【内容】
人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に苦悩していた。祥瓊(しょうけい)は、芳国(ほうこく)国王である父が簒奪者(さんだつしゃ)に殺され、平穏な暮らしを失くし哭(な)いていた。そして鈴は、蓬莱(ほうらい)から辿り着いた才国(さいこく)で、苦行を強いられ泣いていた。それぞれの苦難(くるしみ)を負う少女たちは、葛藤と嫉妬と羨望を抱きながらも幸福(しあわせ)を信じて歩き出すのだが──。
【感想】
★★★★★
景でのお話。またここで陽子のストーリーに戻ります。
急に王になった陽子はこの世界のことが何もわからず役割も果たせず舐められるばかり。なので市井で遠甫という老人から教えを乞うことに。
そして違う国「芳」では王の娘祥瓊(しょうけい)が王である父や母を目の前で殺され、王宮を追い出され貧乏生活を余儀なくされて今までとの生活の差に泣き暮らす日々。
また、「才」では蓬莱から流されてきた鈴が、言葉もわからない異世界で戸惑い、言葉が分かる仙に出会い自身も仙として下女に召し上げてもらいながらも女主人の横暴に泣き暮らしていた。
陽子、祥瓊、そして鈴が重なるとき、私には聞こえてきた、あの音楽・・・・
「人生楽ありゃ苦ーもあるさーーーー♪」
今までの中で一番スッキリするエピソードでした。もう印籠や桜吹雪が見えるかのような勧善懲悪ストーリーでした。
上巻あたりで祥瓊や鈴にイラっとするんですよね。やっぱり。
祥瓊なんかはもうフリガナが振ってないときは「なんて読むんだっけこの子!!」なんて全然関係ない苛立ちまで。
登場人物が増えていくにつれ、名前や言葉が難しくなってきます。章ごとにフリガナが振ってあるのでとても親切なんですが老いてきた脳にはそれでも追い付かないことがしばしば(笑)
いい国になってほしいなあ、景。末永く続いてほしい。
【何も考えていないようで実はすべてが見えているかのような王】東の海神 西の滄海
著者 小野不由美
【内容】
国が欲しいか。ならば一国をやる。延王(えんおう)尚隆(しょうりゅう)と延麒(えんき)六太(ろくた)が誓約を交わし、雁国に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える者が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か──二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くのか。そして、血の穢(けが)れを忌み嫌う麒麟を巻き込んだ争乱の行方は。
【感想】
★★★★★
十二国記、500年以上前のエピソード。
十二国記の世界観ならではです。王やその下で働く仙は年を取らない。何百年でも。
雁(えん)の国の延王尚隆と、延麒六太の物語。
尚隆はやることなすこと結構ハチャメチャな王ですが、それでも500年も続く雁国。
その延王尚隆と、延麒六太の信頼関係が生まれるストーリーでした。
ここで延麒六太の言葉が気になります「尚隆は雁国を滅ぼす王だ」
これはずっと十二国記を読んでいくと短編に出会い、そこで奏の太子と会話をしているときに「なるほど、そういう意味なのか。ある意味めっちゃ怖いな」なんて思いましたがここでは割愛。是非読んでみてください。
尚隆もなかなか、市井に紛れ込んで内側からいろいろと活躍していきます。何も考えていないようで実はすべてが見えているかのようなそんなかっこよさがあります。六太が救出されたときに「あまり心配をかけるな」と声をかけたのにはもううるっと来ました。かっこよすぎでしょ。
ここでとても怖いエピソードがありました。
幽閉されている人が出てきますが、仙は年を取らず、病気などで死ぬこともないので飲まず食わずでも生きながらえてしまう。誰にも会わずひたすら長い時を死ぬこともできずに生きるというのは何と辛いことなのだと思いました。
ここで出てくる六太の友人、更夜ですが、またまた後のエピソードで登場し、感動します。一気読みのいいところはたくさんいる登場人物を覚えているということですね(笑)その時々で読み直しするのもそれはそれで楽しいですが。