【大変だけど不幸ではない】亜由未が教えてくれたこと 〝障害を生きる〟妹と家族の8800日
著者 坂川裕野
【内容】
障害をぜんぶ抱きしめた、家族の奮闘の物語
2016年の相模原障害者殺傷事件をきっかけに、重い障害をもつ自らの妹にカメラを向けて番組を作ったNHKのディレクターが世に問う、「障害者は不幸を作ることしかできませんか?」
「障害者は不幸を作ることしかできません」――2016年7月、神奈川県相模原市にある知的障害者施設で大量殺傷事件を起こした植松聖被告の言葉だ。障害者を介助する立場にあった元職員が起こした事件の衝撃性と同様に、その言葉も人々の心の淵にくらい影を落とした。事件をきっかけに、重い障害をもつ自らの妹にカメラを向けて番組を作った若きテレビディレクターの著者。本書は、少しでも多くの人に障害者のリアルな苦悩や喜びを知ってほしいと願う著者が、社会に宛てて綴った長い手紙である。
【感想】
★★★☆☆
「幸せ」「不幸」というのは非常に主観的だなと思った。「笑ってくれない」なんてずっと言っている筆者に対し最初は苛立ちを感じた。あとで両親がたしなめている場面ですっとした。
確かに、重度心身障害者の亜由未ちゃんの介助は大変である。
ヘルパーさんの協力なくてはなしえないものだし、お母さんも夜ずっと起きて一時間ごとに体位を変えてあげたり、その他にもたくさんの「大変なこと」がある。
このお母さんが小学生のころから祖母の介護をしていて、自分の子供には自由にさせてあげたいから介助の強制はしない、でも娘には近くに住んでいてほしいというのが辛いなと思った。子供の自由を少しでも制限することなんて親として言いたくないけど、でもそう約束してもらわないと亜由未が心配でたまらないという気持ち。
ほとんどお父さん、お母さんが主体になって介助しているから、もし自分がいなくなってしまったらと考えると「医者になり亜由未の主治医になる」と言ってくれている娘に頼りたくなる。
亜由未さんの双子の姉妹、由里歌さんも医者を目指したのはやはり双子の亜由未ちゃんのことが影響したのは明らかだけど、それでもやはり大学生になり、一人暮らしをして「普通の大学生」の暮らしをしていたらきっと思うこともあっただろう。
由里歌さんの「一生懸命障がい者兄弟の介助や支えをして美談を流している番組を見て辛くなった」という気持ち。これはこういった立場の人でない限りわかりえない気持ちなんだろうなと思った。「美談」も、いろいろな立場で考えると「美談」ではない。
彼らが幸せであるかどうか、それは当事者にしかわかりえないことだと思う。私たちが勝手に「障害を持っているから不幸だ」とか「笑っていないから幸せじゃない」と決めつけることではないと思う。友人で、話ながら笑っている人でももしかしたら心のうちはとても不幸だったりするのかもしれないし。逆にはたから見たらめっちゃ不幸な境遇でも、その人はとても幸せなのかもしれないし。
なので、このドキュメンタリーは相模原の事件をきっかけに書かれたものらしいけれど、その犯人が言った「不幸」の決めつけはおこがましいものであるなあと思った。