プロフェッショナルな読者 グッドレビュアー 500作品のレビュー 80% VIPメンバー NetGalley.JPベスト会員2021

ぶくぶくブックレビュー

読んだ本のレビューを書いています。

【急に脚光を浴びた検疫という仕事】成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪─

f:id:piyopiyobooks:20220225230555p:plain

著者 田中一成

【内容】

──成田空港検疫所600日間の闘いの記録と元検疫所長からの提言──

空港検疫は、国内へのウイルス流入を阻止する最初の関門である。

新型コロナ感染症のアウトブレイクにおいて、その水際の最前線で何が起こっていたのか? 

元成田空港検疫所長による記録の書。

普段、ほとんどの人が意識することのない空港検疫だが、新型コロナウイルスの流行によって注目を集め、水際(出入口)=検疫というイメージから、時に「お粗末」「対策が粗い」など批判の的となった。

圧倒的な人員不足の中、現場ではさまざまなドラマも起こっていた。

検疫体制強化のために机や椅子をはじめとした備品をレンタルしようとしても、ウイルス汚染の風評被害を懸念し、リース業者は頑なに対応を拒否した。

帰国する日本人たちの横暴な態度にも悩まされた。

そして、パンデミック下のオリンピックでの検疫という、前代未聞の事態も経験することになる。

未曾有のパンデミックに検疫が混乱したのは事実。しかし、今回生じた数々の問題は、従来、検疫制度が抱えてきた問題が、コロナという極めて厄介なウイルスによって顕在化されたことによるところが大きい。この経験を検証し、改めるべきことは改めていかないと、次、新たなウイルスがやってきたとき、私たちは同じ過ちを繰り返すことになる、というが著者の切実な思いである。

2020年春から始まった新型コロナウイルスパンデミックの記録と、この先、議論・検証される検疫制度改革に対する現場からの提言。 

 

【感想】

★★★★★

 

検疫官という仕事についてどれくらいの人が知っているだろうか。

コロナ禍になり急に脚光を浴びた検疫官。

私は以前空港で働いていたので検疫官という仕事をある程度、お客さんに案内できる程度には知っている。仲良くなった検疫さんともご飯に行ったことがある。

検疫官はだいたい空港や港にいて、日本に植物や食べ物から病気を媒介する虫や海外から病気などが持ち込まれないように頑張っている人たちだ。

コロナ禍の前は、空港に降り立った時、入管の前に通っていくけれど、サーモグラフィーで発熱などがないか、なにか症状がないか見ているが、乗客はほとんどの人がただ通過していくだけだろう。

 

時々虫取り網を持って到着した飛行機に乗り込んでいく。何のためか聞いたところ「かぞくちょうさ」と言われた。家族調査?虫取り網持って?と思ったら「蚊族調査」だった。飛行機の中にマラリアなど病気を媒介する蚊がいないかなどを調べるらしい。

普段そんなに目立つことはないけれど、とても大事な仕事であり、厚生労働省所属の国家公務員だ。

 

この本はコロナが始まったころから成田空港でどのように検疫官が動いていたのか書かれた本だ。検疫の仕事に対して少し知っている私も、今回のコロナで初めて知った人も、国の、特に上のほうの対応に「お粗末」と思うことだろう。特にコールセンターのくだりは本当にそう思った。

検疫官は普段から少人数でいろいろな仕事をしている。それに加えて今回のコロナでたくさんの人員が必要になった。なのにひっきりなしにかかってくるクレームの電話。あまりにも仕事に差し支えるのでコールセンターを作ったところ、コールセンターが検疫に聞いてと検疫に回してくるという・・・。何のためのコールセンターなのか働いている人にきちんと説明はしていないのか、簡単でもマニュアルはないのか・・・。

 

その他にも、未知の病気で検疫に近づきたくない、できれば海外から来る人とは距離を置きたい。その気持ちはとてもわかる。私もそうだった。

けれど、数少ない(思ったよりすごく少なかった検疫官)検疫官や医療従事者に、国はその人たちが現場でスムーズに、きちんと仕事ができるようにしてあげないと思う。未知のこと、初めてのことで現場に混乱が出るのは仕方がないと思う。それでも国が現場で働く人たちにさらに負担をかけたり混乱を招いたりするのはどうなのか。何が起きているのか、当初は誰にもわからなかった。それでもできるだけスムーズに対応するにはいろいろな機関の対応も必要だ。

 

2年前よりはだいぶ仕事もわかってきたしウイルスに対してもわかったこともあり、ワクチンの普及もあって少しはましになったのかもしれない。それでもまだまだ隔離やアプリ対応、検査などなど、忙しい日々はなかなか終わらなさそうだ。

 

まだまだ落ち着かない日々が続きますが、検疫官の皆様、いつも本当にありがとうございます。