【矯正医官というお仕事】ここでは誰もが嘘をつく
著者 嶋中 潤
【内容】
目の前にいる患者は、犯罪者。罪を償わせるために、命を救う医師がいる。
この仕事は、誰かがやらなければいけない。
目の前の患者を救うことを、分け隔てなく。
函館にある医療刑務所分院に努める金子由衣(かねこゆい)は、2年目の矯正医官。医療刑務所では、患者である受刑者の平均年齢も高く、凶悪な罪を犯した者も基礎疾患などを抱え医師の助けを必要としている。一方で不調を訴え刑務作業逃れをしようとするものも多い。受刑者の過去の罪と患者としての現在の状況を毎日のように目の当たりにし、贖罪とは何かを考える由衣だったが、当直の晩、糖尿病を患っていた前科四犯の受刑者が亡くなった。これは医療事故か、あるいは殺人事件なのかーー。
【感想】
★★★★★
「矯正医官修学資金貸与制度」というものがあることを初めて知った。
医師を目指す大学3年生から申し込むことができる奨学金で、この後は法務省の指定する医療機関で数年働くと、返金不要になる奨学金制度だ。
主人公の由衣はこの制度で医師になり、矯正医官として医療刑務所で働いている。
医療刑務所とはいわゆる刑務所ですごす犯罪者のための病院のことである。
犯罪者への医療はどこまで必要なのか。ものすごく難しい問題だと思う。
透析患者は週に3回何時間もの透析治療を受けなければ死んでしまうし、普通に娑婆にいる人たちと同じように、犯罪者も病気にかかる。そして治療を受けることになる。税金で。
「強制的に身柄を拘禁する以上、被収容者に対する医療は、国の責務です。被収容者が心身の健康を回復することは、再犯防止のための大きな一歩ですし、心身の疾病等を一因として犯罪に及んでいた場合、適切な医療措置を講じること自体が改善更生を図ることになります。このように、矯正医療は、刑事政策上も重要な意義を有していますので、ご理解をお願いします。」
と書かれている。
果たして再犯防止になるのか、この物語では黒田という男について書かれていて、なんとも後味の悪い結末になったエピソードが書かれている。
もちろん犯罪者の中にもいろいろな人がいる。
透析治療をやめたいという平田受刑者のエピソードについては涙腺が緩んだ。
矯正医官の人たちはこういった葛藤を日々抱えながら仕事をしていると思うので本当に頭が下がる。
医者を目指す学生さんに是非読んでもらいたい作品でした。
とにかくものすごく考えさせられた。