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ぶくぶくブックレビュー

読んだ本のレビューを書いています。

【めったに読めないアジア文学】絶縁

著者 村田沙耶香 ほか

【内容】

アジア9都市9名が参加する奇跡のアンソロジー、日韓同時刊行!

韓国の人気作家チョン・セランの掛け声のもと始まった、9都市9名からなる奇跡のプロジェクト。奇しくもコロナ禍や戦争によって国をまたいだ交流が困難になった時代、作家たちは「絶縁」からいかなる物語を紡ぐか。

突如若者に舞い降りた「無」ブーム。世界各地に「無街」が建設され――。(村田沙耶香「無」)

夫がさりげなく口にした同級生の名前、妻は何かを感じとった。(アルフィアン・サアット「妻」/藤井光・訳)

ポジティブシティでは、人間の感情とともに建物が色を変える。(ハオ・ジンファン「ポジティブレンガ」/大久保洋子・訳)

先鋭化する民主化運動の傍らで生きる「あなた」たちの物語。(ウィワット・ルートウィワットウォンサー「燃える」/福冨渉・訳)

都市に走った亀裂、浸透する秘密警察、押し黙る人びと。(韓麗珠「秘密警察」/及川茜・訳)

ブラック職場を去ることにした僕。頭を過るのは死んだ幼馴染の言葉だった。(ラシャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」/星泉・訳)

家族の「縁」から逃れることを望んできた母が、死を目前にして思うこと。(グエン・ゴック・トゥ「逃避」/野平宗弘・訳)

3人の少年には卓球の練習後に集う、秘密の場所がある。(連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー/及川茜・訳)

6人の放送作家に手を出した男への処罰は不当か否か。(チョン・セラン「絶縁」/吉川凪・訳)

 

【感想】

★★★★★

村田沙耶香さん目当てで読んでみたのだけれど、思ったよりとてもよかった。

 

翻訳の日本語が少し苦手であまり翻訳本を読むことがなく、さらに読んだとしても欧米の作品ばかり。アジアの作家さんはそれこそチョ・ナムジュさんしか読んだことがないと思う。結果、すごく面白かった。

 

村田沙耶香さんの作品は「無」ブームについての村田沙耶香さんらしい奇抜な作品で、とても面白かった!

 

しかし心に残ったのは次の「妻」という作品。子供に恵まれないマレー系の妻が、こういう展開に出るとは思わなかった。文化的にももちろん違うけれど、こういう展開になりえることがあるんだ!という驚き。そしてその展開になった時の気持ち。自分ではそういう展開になることがないから、どういう気持ちでこの人生を選択したんだろうとか、どんな気持ちなんだろうとか想像するのが難しい。けれどそこが面白かった。

 

チベットの作家さん、ラシャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」も、面白かった。なんかちょっと暗い雰囲気のお話なのですが、少し希望があるというか。絶望の淵でも小さい希望があるかもしれないというのがよかった。このお話に出てくる若くして怠惰な男を夫にした少女にも少しの希望があったと思いたい。

 

そして台湾の作家さん。連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」舞台はサンタルシアで、サンタルシアってどこだっけと、地図を見た。マルティニークのすぐ近く。カリブ海にあった。ここに出てきた現地民の黒人の男の子と「鳥の巣」と呼ばれていた少年、そしてお金持ちの台湾から来た少年。このかかわりがとても新鮮で面白かった。

 

どの海外作品ものちに解説もしくはあとがきがついていて、文化背景を知らない人でもなるほどというのがわかる。このあとがき・解説を付けてくれたのはすごく良かったと思う。

 

あまり知らないアジアの作家さん、少しずつ作品が読めるのはかなりお得だと思いました。