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ぶくぶくブックレビュー

読んだ本のレビューを書いています。

【心にしみるミステリー】神様の思惑

著者 黒田研二

【内容】

「僕を殺してくれる?」
あのとき、そう願った少年。
二十年ぶりの邂逅によって、謎は解き明かされる。

隠された愛が涙を誘うミステリ集!


美しい伏線、感涙のミステリ。
『神様の思惑』は、令和になって奇跡的に発掘されたタイムカプセル
――解説(ミステリ評論家・大森滋樹)より

技巧ミステリの名手による、深い家族愛をめぐる五つの物語。
遊園地で休憩中の若い父親は、清掃員の男性に頼まれ、迷子の親捜しをする。そこで、清掃員がかつて近所の公園で寝泊まりしていた「カミさん」だったことに気づく。彼は少年時代、「カミさん」に自分を『殺してくれ』と頼んだことを思い出す。(表題作「神様の思惑」)
隠された愛が涙を誘うミステリ短編集(『家族パズル』改題)。

 

【感想】

★★★★★

帯を見てちょっと不穏な雰囲気を感じた第一印象。帯の表題作は実はものすごい思いが溶け込んでいたいい作品だった。

その他にも好きだったのは「家族の序列」お父さんと犬の話。どのお話も一瞬なんか不穏さを感じるのだけれど、実はあったかいお話で、後味がとてもいい作品だった。

こういった心にしみる作品、今の殺伐とした世の中の救いになるなあと思いました。

ミステリーが好きだけど殺人とかじゃなく心にしみるような作品を読んでみたいならお勧めです!

 

 

 

 

【めったに読めないアジア文学】絶縁

著者 村田沙耶香 ほか

【内容】

アジア9都市9名が参加する奇跡のアンソロジー、日韓同時刊行!

韓国の人気作家チョン・セランの掛け声のもと始まった、9都市9名からなる奇跡のプロジェクト。奇しくもコロナ禍や戦争によって国をまたいだ交流が困難になった時代、作家たちは「絶縁」からいかなる物語を紡ぐか。

突如若者に舞い降りた「無」ブーム。世界各地に「無街」が建設され――。(村田沙耶香「無」)

夫がさりげなく口にした同級生の名前、妻は何かを感じとった。(アルフィアン・サアット「妻」/藤井光・訳)

ポジティブシティでは、人間の感情とともに建物が色を変える。(ハオ・ジンファン「ポジティブレンガ」/大久保洋子・訳)

先鋭化する民主化運動の傍らで生きる「あなた」たちの物語。(ウィワット・ルートウィワットウォンサー「燃える」/福冨渉・訳)

都市に走った亀裂、浸透する秘密警察、押し黙る人びと。(韓麗珠「秘密警察」/及川茜・訳)

ブラック職場を去ることにした僕。頭を過るのは死んだ幼馴染の言葉だった。(ラシャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」/星泉・訳)

家族の「縁」から逃れることを望んできた母が、死を目前にして思うこと。(グエン・ゴック・トゥ「逃避」/野平宗弘・訳)

3人の少年には卓球の練習後に集う、秘密の場所がある。(連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー/及川茜・訳)

6人の放送作家に手を出した男への処罰は不当か否か。(チョン・セラン「絶縁」/吉川凪・訳)

 

【感想】

★★★★★

村田沙耶香さん目当てで読んでみたのだけれど、思ったよりとてもよかった。

 

翻訳の日本語が少し苦手であまり翻訳本を読むことがなく、さらに読んだとしても欧米の作品ばかり。アジアの作家さんはそれこそチョ・ナムジュさんしか読んだことがないと思う。結果、すごく面白かった。

 

村田沙耶香さんの作品は「無」ブームについての村田沙耶香さんらしい奇抜な作品で、とても面白かった!

 

しかし心に残ったのは次の「妻」という作品。子供に恵まれないマレー系の妻が、こういう展開に出るとは思わなかった。文化的にももちろん違うけれど、こういう展開になりえることがあるんだ!という驚き。そしてその展開になった時の気持ち。自分ではそういう展開になることがないから、どういう気持ちでこの人生を選択したんだろうとか、どんな気持ちなんだろうとか想像するのが難しい。けれどそこが面白かった。

 

チベットの作家さん、ラシャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」も、面白かった。なんかちょっと暗い雰囲気のお話なのですが、少し希望があるというか。絶望の淵でも小さい希望があるかもしれないというのがよかった。このお話に出てくる若くして怠惰な男を夫にした少女にも少しの希望があったと思いたい。

 

そして台湾の作家さん。連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」舞台はサンタルシアで、サンタルシアってどこだっけと、地図を見た。マルティニークのすぐ近く。カリブ海にあった。ここに出てきた現地民の黒人の男の子と「鳥の巣」と呼ばれていた少年、そしてお金持ちの台湾から来た少年。このかかわりがとても新鮮で面白かった。

 

どの海外作品ものちに解説もしくはあとがきがついていて、文化背景を知らない人でもなるほどというのがわかる。このあとがき・解説を付けてくれたのはすごく良かったと思う。

 

あまり知らないアジアの作家さん、少しずつ作品が読めるのはかなりお得だと思いました。

 

 

 

【人に嫌悪感を与える存在であるということ】獏の掃除屋

著者 風森章羽

【内容】

夜のトンネルで「悪夢の相談承ります」と添えられた名刺をもらった奈々葉。彼は悪夢を食べる能力を持つ男だったーー

白木の家系に稀に生まれる、「獏憑き」の黒沢彩人。
桂輔が社長を務める「白木清掃サービス」で、依頼者の夢の中に入り、悪夢の原因となる穢れを取り除く夢祓いを行っている。

実家のパン屋を継ぐ夢を絶たれた館平奈々葉
妻子と別れ、占い屋を営む根津邦雄
四歳の娘にどうしても優しくできない笑原香苗――

他者の穢れを喰べ悩みを解決し続けた彩人が、今度は桂輔の悪夢を喰べようとすると、
白木家に潜む自分の出生の秘密が明らかになり――

 

【感想】

★★★★☆

夢を食べる動物、獏。

獏は想像上の生き物で、獏の生態について考えることはなかったけれど、このお話の中の獏はとても孤独だった。

 

獏憑きとして生まれてきた彩人。ぶっきらぼうな感じだけれど、そのぶっきらぼうさはきっと彼の孤独から、人とあまり関わらないようにしてきたからだと思われる。

その彩人の飼い主、桂輔は彩人のことをとても大事に思っている。

 

獏憑きの使命は依頼人の夢を食べることで、そして獏憑きの寿命はとても短い。そして極め付けに見た人に嫌悪感を抱かせる背中の痣。そんな獏憑きの彩人が何も欲しがらない、期待をしないというのがとても悲しかった。すでに獏憑きとしての運命が悲しすぎるのに、短いと思われる人生を堪能しようともしないなんて。獏憑きじゃなくても、こういう人っているだろうなと思った。

 

鬱とかであったり、生きづらさを抱える人たちも、こういう考えをする人がいるのかもしれない。そう言った人たちに桂輔のような、救いが現れるといいなと思った。

 

 

 

 

 

【大変だけど、おかしくて、あったかい】ポンコツ一家

著者 にしおかすみこ

【内容】

壮絶なのに笑って泣ける!
FRaUwebにて累計2000万PVを超えた人気連載。家族と介護の物語、待望の書籍化。


家族紹介。
うちは、
母、80歳、認知症
姉、47歳、ダウン症
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。46歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである。
ただ、皆が皆ずっとこうだった訳ではない。
何十年かぶりに、私は実家に戻った。
まずはその理由を、いや長めの愚痴にお付き合い頂けたら、とても嬉しい――。

「どこのどいつだ~い?」「あたしだよっ!」「にしおか~すみこだよっ」
ロングヘアをなびかせ、SMの女王様の格好で行う漫談で人気を博し、エンタの神様にも出演していた芸人・にしおかすみこさん。現在46歳で、髪もバッサリショートヘアにカットしたにしおかさんが「全員ポンコツ」と語る、自分の家族と介護の物語。

【感想】

★★★★★

家族の中でとてもしっかりしていた元看護士さんのお母さんが認知症になり、家のことが大変になっていたので実家に戻ることにしたにしおかすみこさんの笑えて泣けるエッセイ。

 

今までお母さんがすごく頼りになっていた家庭だったみたいなので、頼りにならないお父さんや自分の世話をするのも大変なお姉さんをケアするのはとても大変。

でも、最近はきっとこんな家族も増えているのではないでしょうか。そんな悲喜こもごもな日常をにしおかすみこさんがくすっと笑える突っ込みを振りかけて提供してくれています。

 

注意してほしいのは、40代以上の独身の方が読むと不意にもらいダメージをするかもしれないということ。

 

にしおかすみこさん、47歳 独身。

 

ご両親が高齢者なので、その世代の人たちには「結婚して、子供を産んでやっと人は幸せになる」という認識があるのでしょう。なのでにしおかすみこさんも本書の中でかなりダメージを受けています。

 

しかし現在、結婚して幸せかというと、そうでもない人が結構いる。周りでも離婚した夫婦ってたくさんいるし、そして子供がいたら幸せかというと、子供がいて悲しいニュースになっていることも結構ある。

 

なので、何が幸せかなんて誰にも分らない。

 

孤独死したら怖いというのも、死んだら何もわからないから別に怖いことなんてないし、家族がいたって孤独死することなんてザラにある。

 

にしおかすみこさん、久しぶりに拝見したらすごく綺麗になっていました。ショートヘアがすごく似合う。

 

独身でも、既婚者でも、子持ちでも、幸せのベクトルは人それぞれ。

 

にしおかすみこさんの家族は、「言葉にしちゃうと大変そうだなあと思うかもしれません。もちろん大変なこともたくさんあると思うけれど、やはり愛にあふれているなと思いました。「ポンコツ」という言葉もなんか愛がある気がする。

 

この本を読んで、にしおかすみこさんがすごく愛情深い人なんだなということをすごく思いました。これからも活躍を期待しています。

 

 

 

 

 

 

 

【フランス語版】ものがたりの家

著者 吉田誠治

 

家族へのクリスマスプレゼントを探していたときに、この本が目に留まりました。

こ!これは!!ネットギャリーで読ませていただいた本!

 

piyopiyobooks.hatenablog.jp

そして自分用に購入。眺めているだけで楽しい。

 

 

 

中はこんなかんじ。

他にもこちらを買いました。

 

エルメスの本。他にもグッチ、クリスチャンディオール、シャネルなどがありました。

中はエルメスの歴史とか、グッズとかがいろいろと載っています。

 

これは本棚に飾ってあるだけでもなんか素敵。と思って買いました。

こちらは中は英語でした。

 

 

 

 

 

【女はつらいよ】彼女たちのいる風景

著者 水野 梓

【内容】

生きづらいけれど、生きていたい。私たちはもう一度、産声を上げる。

私たち、38歳。全てが順風満帆にすすんでいる、はずだった。
出産によって「マミートラック」に追いやられてしまった凛。
「シングルマザー」として、発達障害の子供を抱え貧困から抜け出せずにいる響子。
週刊誌のサブデスクまで上りつめがらも、「不妊治療」がうまくいかない美華。

月一回のランチ会で愚痴をこぼすことでストレスを解消していた私たち。
いつの間にか「本当の悩み」は避けるようになっていた。
誰にも言えないその感情はやがて――。

相手を見下すことでしか自分の人生を肯定できない「私」は心が汚れているのだろうか。
「女」、「妻」、「母」
役割を背負わされ、反発しながらも生き抜く、三者三様の戦い。

令和版『女たちのジハード』!

 

【感想】

★★★★★

ずっと昔に比べたら、女性の社会権利はよくなってきたのかもしれない。

しかし、女にはいろいろな問題が出てくる。

 

「仕事」「結婚」「子ども」

発達障害の子供は昔より増えてきたように思う。もちろんそういう診断をされる子供が多くなってきたということもある。その診断によりそういった生きるのが難しい子供たちが少しでも生きやすくなったらいいと思う。

 

女にはどうしても出産のリミットがあるので「仕事」と「結婚」の両立が難しい。

保育園からお迎えに来てくださいという呼び出しがかかってくるのはだいたいお母さんの方だと思うし、迎えに行くのもほぼお母さんだと思う。キャリアがかかっているのは男も女も同じであるのにだいたいお母さんが主に子供の世話をし、家事をしている。これをお父さんが半々でやっているところはすでに少数派であると思う。

 

この物語には三人の女が出てくる。立場はばらばら。

・順風満帆に結婚し、子供を産んだばかりの凛。しかしそのことで今までの仕事はやらせてもらえなくなり、いわゆる「マミートラック」と呼ばれるレールに乗ってしまった。

発達障害ぽい子供を抱えるシングルマザーの響子。学校からも呼び出されるも、自分の子供に診断を付けたくないという気持ちもある。

・キャリアがうまくいくも、夫との間に子供ができない美華。

 

いろいろな悩みを抱えた女性たち。きっとたくさんの女性の悩みと共通していると思う。誰もが自分は苦しいと思いながら生きているのだろうなと思いながら読んだ。小さくても大きくても悩みのない人なんていないと思う。人からするとほんの小さな悩みだと思われるかもしれないけれど、本人にとっては生きているのが辛いと思うほどかもしれない。

女の幸せは比較論というのはほんとよく言ったもので、どうしても女は特に、人と比べて一喜一憂しがちだと思う。そんなの意味がないと知っているのにやめられない。

 

そういったものを抱えながら、これからの人生どうやって生きていくのか。後悔のない人生なんてないと思うけれど、できるだけ後悔のないように、自分の選んだ道を信じて、なるべくポジティブに生きていけたらいいなと思いました。

 

 

 

 

【矯正医官というお仕事】ここでは誰もが嘘をつく

著者 嶋中 潤

【内容】

目の前にいる患者は、犯罪者。罪を償わせるために、命を救う医師がいる。
この仕事は、誰かがやらなければいけない。
目の前の患者を救うことを、分け隔てなく。

函館にある医療刑務所分院に努める金子由衣(かねこゆい)は、2年目の矯正医官医療刑務所では、患者である受刑者の平均年齢も高く、凶悪な罪を犯した者も基礎疾患などを抱え医師の助けを必要としている。一方で不調を訴え刑務作業逃れをしようとするものも多い。受刑者の過去の罪と患者としての現在の状況を毎日のように目の当たりにし、贖罪とは何かを考える由衣だったが、当直の晩、糖尿病を患っていた前科四犯の受刑者が亡くなった。これは医療事故か、あるいは殺人事件なのかーー。

 

【感想】

★★★★★

「矯正医官修学資金貸与制度」というものがあることを初めて知った。

医師を目指す大学3年生から申し込むことができる奨学金で、この後は法務省の指定する医療機関で数年働くと、返金不要になる奨学金制度だ。

主人公の由衣はこの制度で医師になり、矯正医官として医療刑務所で働いている。

医療刑務所とはいわゆる刑務所ですごす犯罪者のための病院のことである。

 

犯罪者への医療はどこまで必要なのか。ものすごく難しい問題だと思う。

透析患者は週に3回何時間もの透析治療を受けなければ死んでしまうし、普通に娑婆にいる人たちと同じように、犯罪者も病気にかかる。そして治療を受けることになる。税金で。

 

法務省矯正医官のページに

強制的に身柄を拘禁する以上、被収容者に対する医療は、国の責務です。被収容者が心身の健康を回復することは、再犯防止のための大きな一歩ですし、心身の疾病等を一因として犯罪に及んでいた場合、適切な医療措置を講じること自体が改善更生を図ることになります。このように、矯正医療は、刑事政策上も重要な意義を有していますので、ご理解をお願いします。」

と書かれている。

 

果たして再犯防止になるのか、この物語では黒田という男について書かれていて、なんとも後味の悪い結末になったエピソードが書かれている。

 

もちろん犯罪者の中にもいろいろな人がいる。

透析治療をやめたいという平田受刑者のエピソードについては涙腺が緩んだ。

 

矯正医官の人たちはこういった葛藤を日々抱えながら仕事をしていると思うので本当に頭が下がる。

 

医者を目指す学生さんに是非読んでもらいたい作品でした。

とにかくものすごく考えさせられた。